大弦小弦

[大弦小弦]影を踏まない聖火リレー

2020年3月23日 07:49

 聖火リレーが街にやってくる。でも、福島県浪江町(なみえまち)の新妻(にいつま)泰さん(60)は静かに憤慨している。「こんなの、復興五輪でも何でもない」

▼新型コロナウイルスの影響がなければリレーは26日、東京電力福島第1原発の周辺から全国へ出発する。浪江町では国主導で整備された先端研究施設を走る。新妻さんは「あれは浪江でなく国のもの。立派な工場をアピールするより、駅や役場を見てほしかった」。施設には行ったこともない

▼原発事故の放射能汚染が深刻な浪江町。3年前に一部で避難指示が解除されると、新妻さんはすぐ古里で居酒屋と宿を再開した。町内に住む人はまだ事故前の6%ほど。街の明かりが一つずつ戻るのを見守ってきた

▼浪江町の南隣、原発の地元双葉町の夜はもっと暗い。今月、ごく一部で避難指示が解除されたばかり。1階部分がつぶれた店、窓ガラスが破れカーテンが翻る民家。9年前で時が止まったような無人の街を、わずかな街灯を頼りに歩いた

▼原発周辺の幹線道路沿いには、立ち入り制限のバリケードが残る。その向こうに故郷や墓がある。基地のフェンスを思わせる光景。原発災害は、何も終わっていない

▼リレーは色濃い影を避け、スポットライトで人工的に明るくした所を選んで走る。飛び石を渡るように。復興をうたう五輪の一断面である。(阿部岳

 
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