村上春樹さんの「ダンス・ダンス・ダンス」に片腕の詩人が登場する。誠実だが、心酔する女性写真家の世話に追われる役回り。写真家の娘は「とてつもないばか」と軽蔑する

▼詩人がある日、事故死する。「彼にひどいことを言った」と悔やむ娘。娘と親しい主人公は「君に後悔する資格はない」と一喝する。「後悔するくらいなら彼と公平に接するべきだった」。学生時代に読み、人づきあいとは、相手といつ死別しても悔やまぬような接し方が大切なのだと学んだ

▼漫画家きくちゆうきさんが、ツイッターで連載した「100日後に死ぬワニ」が20日に完結し、話題を集めた。擬人化したワニの何げない日常を描き、読者は余命があと何日か知りながら読むところが切ない

▼路上でヒヨコを助け、事故死すると思わせる場面で終わる。きくちさんが20歳のとき親友が事故死した。「限りある時間を大切にしてほしい」との思いで執筆したという。4月に書籍化される

▼村上さんも若いころから、平時と思えぬほど親しい人の死を多く経験したと書いている。井伏鱒二は漢詩「勧酒」の結びを「さよならだけが人生だ」と訳した

▼年度末は別れの季節。人との別れ際は「じゃあね」より「またね」と言うようにしている。さよならは中国語で「再見」。悔いなく接すれば、きっとまた会える。(吉田央)