文部科学省は24日、2021年度から中学校で使用する教科書の検定結果を発表した。社会科(地理・歴史・公民)の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」について、7社中6社が記述しているのに対し、新規参入した山川出版は触れなかった。

 高校歴史教科書で高いシェアを誇る大手出版社が、日本兵による住民虐殺と同じように沖縄戦での犠牲を象徴する「集団自決」を教科書で取り上げないことの影響を懸念する。

 山川出版は05年度検定に申請した高校日本史の教科書から自主的に「集団自決」の記述をなくした。文科省は06年度の検定で「沖縄戦の実態について誤解を与えるおそれのある表現」として、「集団自決」における「軍命」を認めないとする意見を付けた。その結果、他社の教科書から軍の強制性を示す記述が一掃された。「同社の削除が検定の呼び水になった」経緯がある。記述がないままの新規参入は看過できない。

 検定が問題化し、07年9月に11万人(主催者発表)が結集する県民大会が開かれ、その後の運動で「関与」を示す記述は復活したが、強制性の明示には至っていない。06年度に「集団自決」に付けた意見も撤回されていない。

 山川出版は16年、文科省に高校歴史教科書の訂正申請を出し、「島民を巻き込んでの激しい地上戦となり、『集団自決』に追い込まれた人びとも含めおびただしい数の犠牲者を出し」とする記述を復活させている。

 中学歴史教科書に記述がないままでは中学生が沖縄戦の重要な史実を知る機会を失いかねない。記述を求めたい。

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 社会科の教科書は、尖閣諸島(沖縄県)と竹島(島根県)を「固有の領土」と明記した新学習指導要領に基づく初の検定だった。歴史、地理、公民でほとんどの教科書が領土を詳しく取り上げた。

 領土教育を重視する安倍晋三政権の意向を受け、文科省は14年、教科書作成の指針となる中学と高校の指導要領解説書を改定、尖閣諸島と竹島を「固有の領土」と明記した。政権の「教科書改革」の一環だ。その結果、15年度の検定で教科書で領土の記述は倍増した。今回も前回検定の方針を踏襲している。

 日本政府の見解を鮮明にする一方で、周辺諸国の主張を排除する内容では問題の本質や解決策を考えることは難しい。

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 全面実施された新学習要領の理念は、子ども自身による「主体的・対話的で深い学び」である。「深い学び」は、多様な意見に触れながら、解決策を探ることで育まれていく。

 国の見解を検定で押しつけることは教科書への「政治介入」と言わざるを得ない。政府の見解を知ることは悪いことではない。だが、時の政権によって見解は変わり得る。

 検定に合格するために、執筆者や出版社が萎縮し、政府の意向に忖度(そんたく)していけば、国によって教育内容が左右されることになる。これでは先の大戦を招いた「国定教科書」への回帰につながりかねない。