「愛」と「恋」を書くのは難しい

土肥: 文字を書く順番は決まっているのですか?

坂口: アジアの「亜」から始まって、漢字をずっと書き続けます。そして、英語、カタカナ、最後にひらがな。なぜ、ひらがなが最後なのかというと難しいから。ひらがなは画数も少ないので「簡単でしょ」と思われたかもしれませんが、バランスをとるのがものすごく難しい。というわけで、漢字の「亜」から始まって、ひらがなの「ん」で終わる。

土肥: 食事で例えると、苦手なモノを最後に食べるといった感じですかね。話は変わりますが、書いているときはどんな雰囲気なのでしょうか? ピリピリしているとか、逆にリラックスしているとか。

昭和書体の坂口太樹社長

坂口: 書体によって「人格」が変わってしまうんです。豪快な文字を書いているときには、ずっとその文字を書き続けていることもあってか、豪快な人格になっていく。そうしたときには、あまり近づくことができません。ピリピリしているので、怖いんですよね。

 一方、細くて繊細な文字を書いているときには、繊細な動きをする。本人も「女性のような気持ちで書く」と言っていまして、そうしたときはしぐさもいつもと違うんですよね。やわらかい動きをしている。

土肥: これまで64書体を完成させてきているんですよね。ということは……。

坂口: 64の性格で書いてきました。

昭和書体で一番人気の「闘龍書体」

土肥: 書体を完成させるのに7000字ほど書くわけですが、苦手な文字はあるのでしょうか? 「ん~、これはいつ書いてもうまく書けん!」といった感じで。

坂口: 実は、あるんですよ。それは「愛」と「恋」。

土肥: むむ、それは気になる、気になる。理由として、過去の甘酸っぱい記憶が関係していそう(ワクワク)。

坂口: なぜ「愛」と「恋」の文字を書くのは、難しいのか。本人に理由を聞いたところ「書いていて、照れてしまう」と言っていました。文字を書くときに、意味をイメージするからかもしれません。

土肥: 意識しすぎて、手先がにぶるのかもしれませんね。考えてみると、日常生活を送っていて「愛」とか「恋」という文字をきちんと書くことってあまりないですよね。ましてや、毛筆を使って書くとなると、照れくさい気持ちがより膨らむのかも。