蓮池の水面(みなも)から伸びる木のくいに1羽のカモメ。彼方(かなた)の高層ビル群へのまなざしは、穏やかながら意思を秘めているようにも見える。うるま市の石川哲子さん(70)の絵画「都会の孤独」。今年、沖展賞を射止めた

▼老後の生きがいにと50歳を過ぎてから絵筆を取った。自己流の壁を感じていたが、ここ数年は糸口をつかみかけている。指導しているのは沖展会員で画家の知念秀幸さん

▼いわく、色使いや構図を見たままに描くなら、そこに魂は入らない。季節の移ろいには敏感に、聞こえぬ声に耳を澄まし、万物を愛せと。聞くほどに記者にも通じる言葉の数々。新任地への異動を前にした取材で思わぬ激励を受けた

▼夏休みの度に、生まれ育った東京からやんばるの静かな集落に祖父母を訪ねた。テレビで高校野球を応援する亡き祖父の傍らに、いつもオリオンビールと沖縄タイムスがあった

▼時を経て変わらぬ山の稜線(りょうせん)を名護の新居から仰ぐ。ひんやりと肌をなでる朝の空気、せわしい鳥のさえずり。初対面でも親しみのある人の距離感が懐かしい

▼〈人が2人いれば記事がある。ささいなことにも興味を持って〉。記者の大先輩から届いた餞別(せんべつ)の言葉が染みる。しっかりと地に足をつけて、緑の輝きと風のささやきを感じながら、村落をたどるやんばる飛行のスタートだ。(粟国雄一郎)