新型コロナウイルスの感染対策で着用するマスクは、耳の不自由な人たちにとっては相手の表情や口元が隠れて意思疎通のバリアーとなることが少なくない。全国各地の知事会見などでマスクを外したり、手話通訳者を配置したりする動きが広がるが、日常生活ではまだ数々の困り事が横たわっている。(学芸部・新垣綾子)
◆命に関わる情報
「スピードはこのくらいでいいですか」。11日の県新型コロナウイルス感染症対策本部会議。玉城デニー知事は後方を振り返り、手話通訳の男性に確認した。手話が追い付くよう、普段よりもゆっくり語っている印象だ。県広報課によると、聴覚障がい者らの要望を受け、同日から手話通訳者を配置。ライブではないものの、字幕を付けた上で原則その日のうちにユーチューブ県公式チャンネルで配信している。
県聴覚障害者協会の本田一郎事務局長(55)は「新型コロナの情報は命に関わり『やっと』という思いもある」と強調する。当初はマスクなしでの手話通訳だったが、その後は透明のフェースガードやマスクを着けて臨むなど、感染防止への配慮も見られる。
身体障害者手帳を持つ聴覚・平衡機能障がい者は、県内に約8千人。先天性のろうや中途失聴、難聴、片耳だけ不自由など多様で「コミュニケーション手段も人によってさまざま。手話だけでなく、相手の表情や唇の動き、文字などの情報を組み合わせることで内容を深く理解できる」と本田さんは説明する。
◆遠隔手話サービス
気苦労が絶えないのは、例えば病院受診や行政機関の窓口を訪れる時。マスク着用による咳(せき)エチケットがとりわけ求められる上、同行することがある手話通訳者に感染のリスクが付きまとうからだ。
全国の当事者団体は、タブレットやスマホを通して聴覚障がい者が別の場所にいる通訳者と意思疎通する遠隔手話サービスの強化を国に要望しているが、施策のスピード感や使い勝手は未知数だ。本田さんは「この機会を逃さず、多くの場所で遠隔サービスが普及してほしい」と願う。
◆この非常時にこそ
「尋ねたいことがあってもマスクを外してほしいとは言えず、相手に嫌な思いをさせるよりは黙っておこう、となる」。意思疎通に戸惑うそんな声は、NPO法人美ら島きこえ支援協会に所属する難聴者からも上がっている。
渡久地準(ひとし)事務局長(38)は「日常的にある例として、レジの支払いでは代金を聞き返さなくて済むよう、クレジット払いにしたり最初からお釣りをもらう前提でお金を多めに出したりする」と会員の心情を代弁。「行政や医療機関は特に、筆談対応の徹底や、電話だけなくファクス番号やメールアドレスも問い合わせ先に加えるといった意識を持ってほしい。透明マスクを取り入れてもいいのではないか」と投げ掛ける。
中途失聴という自身は、音声を即座に文字に変換するアプリ「UDトーク」を使いこなす。コロナ禍で注目を集めるネット上の遠隔会議にも、文字変換機能などの応用が可能とし「行政や企業には、情報弱者を生まない工夫と具体的な取り組みを求めたい。この非常時にこそ新しい技術も取り入れながら、耳が不自由でも暮らしやすい環境を整えていけたらいい」と訴えた。