タイムス×クロス 樋口耕太郎のオキナワ・ニューメディア

「制約理論」から新型コロナ問題を考える

2020年4月28日 17:08
不要不急の外出自粛を呼び掛ける国道58号線の電光掲示板=25日午後9時20分、那覇市前島

 随分前の話になりますが20代の後半、ニューヨーク大学のビジネススクールの夜学に4年間通いました。

 大量の書籍を読みながら、その大半の内容は忘れてしまったのですが、例外的に、心の中に強く残っている数少ないことの一つが、制約理論(TOC:Theory of Constraints)という、生産管理の原則です。

 この理論の本質がものすごく分かりやすく書かれている『ザ・ゴール』は、世界的なベストセラーで、著者のエリヤフ・ゴールドラットは、「日本人にこの理論を教えたら、日米貿易摩擦が大変な問題に発展してしまう」ことを懸念して(この本が発刊されたのは1984年です)、日本語訳が2001年になるまで発刊されなかったといういわく付きの書籍です。

 制約理論を一言で表現すれば、「システム全体の生産性は、ボトルネックの生産性に制約される」というものです。どこかで何か(誰か)がもたついていたら、その他の持ち場で頑張っているすべて(の人)の努力が全く無駄になってしまう、という意味です。

 シンプルな概念なのですが、とんでもなく重要な原理なので、私は、あらゆる分野のリーダーはこの概念を理解せずに責任ある立場に立つべきではない、と思っているほどです。

 リーダーの最も重要な仕事の一つは、ボトルネックを特定して、そこに、できるだけ早く、惜しみなく、あらゆる資源を投下することです。

 この考え方をコロナに当てはめると、私たちが本当にするべきことがはっきりしてきます。

 

■コロナ対策のボトルネックは…

 ロックダウン、PCR検査、ホテル確保などなど、個別の課題は山積ですが、それらは結局何を実現するためのものなのか、それはなぜか、をどう解釈するかで、関わる全ての人たちの仕事が生かされるのか、無駄になってしまうのかが決まるのです。

 仮にコロナの最終的な「解決」が、一説の通り、集団免疫の獲得(最終的には人口の60%が抗体を持つまで、この問題は収束しないという考え方です)だとするならば、感染者を出さないことだけでは本質的な解決にはならない、ということになります。

医療従事者らに拍手でエールを送る沖縄県庁職員=23日正午、沖縄県庁(下地広也撮影)

 この前提が正しければ、ちょっと乱暴な言い方ですが、「医療崩壊しない範囲で、できるだけ死者を出さず、しかし、最もスピーディーに多くの人たちの免疫獲得が進むこと」がゴールになるでしょう。

 そのスピードが速ければ速いほど、経済的なダメージが低く、失業などによって苦しむ人たち(多分、病気で苦しむ人たちよりもはるかに大きい数)を救うことができます。

 そのとき、社会全体が、あらゆる手段と資源を使って、医療従事者と医療システムを支えることが、社会全体のコストを最小化します。

 なぜならば、医療従事者の方々の力が、医療のみならず、経済全体のボトルネックになるからです。
 医療従事者が欠けて、例えば重症患者の対応ができなくなってしまえば、人命を救うためにロックダウンや非常事態宣言を繰り返し発動せざるを得なくなり、経済全体に大ブレーキがかかって、沖縄の県民所得4兆円が激しいダメージを受けます。医療従事者を守ることは、4兆円を守ることなのです。

 

■医療を思いやることの価値

 つまり、徹底的に(えこひいきなくらいに)、医療従事者を助けることが、とてもとても価値のあることなのだ、ということです。

 それは、単に医療器具やマスクの問題だけでなく、医療従事者の食事や、休息や、出勤のサポートや、保育所の手助けなどなど、彼らの身近な人間関係と生活全般が含まれなければなりません。医療従事者の仕事だけでなく、彼らの家族を含む、人間としての生活のすべてを助けることが、ひいては、社会全体のために、ものすごく大切なことだ、ということです。

医療従事者への支援に応える感謝のメッセージ=22日、沖縄県立南部医療センター・こども医療センター

 医療従事者の仕事と生活ために、どれだけお金をと時間と意識を使っても、無駄になるどころか、それは社会コストを最小化することにつながります。その認識を持って、医療者を助けるのが、正しい選択でしょう。

 医療者(他人)のことを全力で思いやることが、実は、自分と、自分が大切な人たちを、最も助けることになる…。この概念が社会的に広まることは、また別の、もっと大きく、深い、価値を生むような気がします。(トリニティ株式会社代表取締役社長/沖縄大学人文学部准教授)
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 コロナウィルスの問題に取り組んでいる理学療法士の玉城潤さん素晴らしい活動をされています。本稿にはその応援の意味も込めました。

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