タイムス×クロス 平安名純代の想い風

米兵の命を守った艦長は「愚か」ではない コロナ巡る解任劇の波紋

2020年5月8日 14:42

 米兵の命を守った艦長は「愚か」ではない。批判されるべきは、事実を隠蔽(いんぺい)しようとした米海軍だ-。米空母内で発生した新型コロナウイルスの感染拡大に警鐘を鳴らした艦長の解任を巡り、米国で波紋が広がっている。

(資料写真)星条旗

 米メディアは3月31日、原子力空母「セオドア・ルーズベルト」の艦内で感染が急拡大して制御不能となり、艦長が緊急支援を求めていると報じた。

 3月中旬、ベトナムへ寄港後に3人が陽性となり、密閉された艦内で感染はあっという間に拡大。グアムの港に停泊したものの、現地に対応できる医療施設がない。乗員をすぐに下船させ、陸上施設内に緊急退避させるよう求めた艦長の書簡が事態を動かした。

 全米の主要テレビや新聞が一斉に報じると、息子たちの安全の確保を懇願する親や支援者らが次々と声を上げ、国防総省に問い合わせが殺到。世論に背中を押されるように、海軍はグアムの民間地に隔離施設を確保し、米兵たちが下船できる準備を整え始めた。

 しかし、モドリー海軍長官代行(当時)は4月2日、唐突にクロージャー艦長を解任した。理由を、艦長が通常の指揮系統を逸脱し、安全ではない経路で書簡を送付した「極めて稚拙な判断」が混乱を招いたなどと説明した。実際には「中国やイランに対する即応能力に穴を開けた」との米政府内での批判を考慮した結果だった。

 「モドリー氏は正しい決断をした」。トランプ大統領がそう擁護すると、メディアは「モドリー氏は指揮官を萎縮させ、政治指導者に忖度(そんたく)した」(ワシントン・ポスト)と批判。5日にモドリー氏の「クロージャー艦長の行動は、米軍への裏切り、または世間知らずで愚か」との発言が報じられると、今度は米軍関係者らの間から批判が巻き起こり、モドリー氏は6日夜、辞任に追い込まれた。

 米連邦議員らは、異例の危機対応の最中の解任に強い疑問を呈し、調査を要求。ウォール・ストリート・ジャーナルは6日の社説で「海軍上層部は指揮系統が機能不全に陥っている兆しと受け止めるべきだ」などと痛烈に批判した。

 約4500人の乗員のうち、4月30日時点の感染者は1102人、死者1人。解任された艦長自身も感染した。

 おそらく多くの命を救った艦長の書簡がメディアで報じられていなかったら、事態はどうなっていたのだろう。

 海軍在籍25年以上の艦長は、こうした行動がキャリアを棒に振る可能性があることを十分に承知していたはずだ。

 一方で国防総省は、くしくも艦長が書簡を発信した同じ日に、基地や部隊別の感染者数や詳細を非公開とする方針を決定した。

 一刻一秒を争う米兵たちの命に関わる緊急事態で、国防総省はこの事実を隠蔽しようとしていたのだ。

 愚かなのは果たして誰なのか。解任劇が露呈した事実が私たちに問いかけている。(平安名純代・米国特約記者)

 

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