新型コロナウイルスによる外出自粛や生活の不安で、児童虐待の深刻化が懸念されている。児童相談所を管轄する県は、相談件数を「増加傾向にない」とする。一方、ある子ども支援団体で働いて5年以上になる女性スタッフのスマートフォンは鳴りっぱなし。4月、30人ほどから約400件あった相談は、普段の3倍以上。家庭の中で、いま、何が起きているのか。(社会部・光墨祥吾)
■電話口から暴言
「てめぇ、邪魔だ」「どけ」。ガシャン。4月、女性スタッフにかかってきた電話。「もしもし」という言葉の後、暴言が聞こえ続けた。「大丈夫?」「けがしていない?」と呼び掛けても返事はない。状況が落ち着いたのか、ぽつぽつと電話先から声が聞こえてきた。自宅の様子を知ってほしいと思った女子高校生からだった。親に気付かれないよう電話をつなげたままにしていたという。
女性スタッフには、虐待をうかがわせる電話が頻繁にある。「新型コロナのせいで父親が家でずっとお酒を飲んで、大声を出して怖い。家を飛び出した」「両親から物を投げつけられ、あざになった」といった声だ。うまく言葉で悩みを伝えられる子ばかりではない。リストカットや包丁の写真が送られ、「いまから死ぬ」「殺されるくらいなら、親を殺す」。そんなメッセージが届く。「愛されたい」と打ち明ける子もいた。
■睡眠2~3時間
電話、LINE、ツイッター、ショートメール。あらゆるツールで、連絡が来る。新型コロナの影響で外出を控える呼び掛けが広がり、店が少しずつ閉まり始めた頃、だんだんと増えた。普段の相談は月に5~10人ほど。4月は約30人と急増し、1日当たりのスマホの稼働時間は、多いときに18時間を超えた。
すぐに返事をしないと、子どもは相談を諦めてしまう。イヤホンを付け、電話で悩みを聞きながら、3人とLINEのやりとりをして、ほかのメッセージアプリで別の子の相談に乗る。連絡が来るのは、平日の昼間や深夜。自宅で親と顔を合わせない時間帯だ。女性スタッフの睡眠時間は2~3時間になった。「家庭から悲鳴が上がっている。最悪の事態を招かないため、丁寧に子どもに寄り添い、話を聞き続けることが、いま、私にできることです」と話した。