悪魔の病気と恐れられた「天然痘」は、強い感染力と高い致死率で、インカ帝国やアステカ帝国を滅亡させたといわれる。世界保健機関(WHO)によると、20世紀だけでも3億人が亡くなった
▼きょう14日は、天然痘根絶の第一歩になった日だ。1796年のこの日、英国のエドワード・ジェンナー医師が天然痘ワクチンの接種に成功した
▼牛や人に感染する天然痘によく似た病気(牛痘)にかかった女性の手の水疱(すいほう)から液を取り、それを少年の腕に接種したことで抗体ができて天然痘にかからずに済んだという。人類初のワクチンの発見は、その後の免疫研究の道を切り開いた
▼一方、新型コロナウイルスの感染対策にもワクチン開発は急務だが、米中両国を中心に競争が激化している。有効なワクチンの完成によって国際社会での影響力を強めることができ、主導権を握れるとの思惑があるようだ
▼日本や欧州各国も開発を進めているが、人体に投与したときの安全性と効果を担保できるかが最大の課題になる
▼WHOが天然痘の根絶を宣言してから今年で40年。テドロス事務局長は「共通の脅威に各国が一致して立ち向かえば、何を成し遂げられるかを天然痘根絶は教えてくれた」と指摘したが、コロナ対策で各国の一致団結は見えない。今こそ「競争」より「協調」ではないか。(吉川毅)