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「拳を折って2年も休んだ俺を最後まで見捨てず、支え励まし続けてくれた全国のファンのために世界戦を戦ったわけです」 浜田剛史(プロボクサー)のコトバ

2020年5月18日 00:00
WBC世界ジュニアウエルター級タイトルマッチで1回3分9秒でKO勝ちし、念願の世界チャンピオンになった浜田剛史=1986年7月24日、東京・両国国技館

 1986年7月24日、両国国技館で行われたプロボクシング世界ボクシング評議会(WBC)世界ジュニアウエルター級(現スーパーライト級)タイトルマッチ。戦前、無敵の王者レネ・アルレドンドに挑む浜田剛史の勝利を予想する声は皆無だった。まともに戦えば勝ち目はない。作戦は「最初の3ラウンドで全てのスタミナを使い切る」。開始のゴングと同時に襲いかかり、怒濤(どとう)のラッシュを仕掛けた。

◇「こいつには勝てない、と思うから挑戦したくなる」 

 1960年11月、沖縄県中城村で生まれた。「ケンカ相手はいつも体の大きい上級生とだけ。こいつには勝てない、と思うから挑戦したくなる。弱い者いじめだけは絶対にしなかった」と振り返る。

 正義感と闘争心旺盛な少年は、小学校高学年になると兄の影響でボクシングを始めた。本格的に取り組んだのは沖縄水産高校入学後。78年、3年生の時に福島県で開かれたインターハイで、強烈なパンチを浴びせてフェザー級王者に輝いた。

福島インターハイのフェザー級決勝で、左ストレートを決める沖縄水産高校3年の浜田剛史(左)=1978年8月6日、南相馬市

◇15試合連続KO勝ちも・・・ 致命傷負い2年のブランク

 翌年に上京しプロ転向。鳴り物入りの強打はプロのリングでも猛威を振るう。85年に打ち立てた15試合連続KO勝ちは、後に郷里の後輩・比嘉大吾に並ばれたものの抜かれず、今も日本記録のままだ。

日本記録の15連続KO勝ちは、浜田剛史(右)が1985年に、比嘉大吾が2018年にそれぞれ達成した

 だが連勝街道を突き進む中で、利き手の左拳が悲鳴を上げる。自らの強打に耐え切れず、同じ箇所を4度も骨折。ボクサーとしてはあまりにも致命傷で、2年間のブランクをつくった。

◇ファンは浜田を待ち続けた 83年に奇跡の復活

 それでも、ファンは浜田の豪快なKO劇を待ち続けた。「全国のファンが励ましの手紙をくれるんですよ。2年も休んだら、普通は忘れられるのがこの世界。でも、ファンは俺を見捨てなかったんですね」

 治ったと思って打つと折れてしまう左拳だったが、心は折れなかった。ブランク中も休まず、右パンチだけを愚直に鍛えた。ジムだけでなくアルバイト先の工場の鉄骨を素手でたたき続けた結果、今も右手は変形したまま。「左が使えなくても、ボクシングは右だけで戦うことができますから」

 83年に奇跡の復活を果たす。日本王者、東洋太平洋王者となるが「カムバック後は左を一度も思い切り打ったことがない」という。「世界チャンピオンになるまで、とにかく左拳がもってほしい」との一心で勝ち続け、その日を待った。

東洋太平洋ライト級王者として沖縄に凱旋し、1回KOで初防衛に成功した浜田剛史(右)=1985年11月3日、那覇市・奥武山体育館

◇「最後まで俺を見捨てなかったファンとジムのために戦った」

 そして86年、世界タイトル挑戦が決まる。故与那覇朝大氏のデザインしたシーサーの刺しゅうの入った真っ白なガウンを着て、幼い頃から夢見た世界戦のリングに上がった。

 「沖縄から出てきた当時は『内地の人間、ヤマトーンチュに負けるな』という気持ちでした。でもけがで休んだ時、全国のファンが俺を支え続けてくれた。そうすると目標は『対ヤマト』ではなく、『対世界』になる。世界戦は最後まで俺を見捨てなかったファンと、クビにしなかったジムのために戦ったわけです」

 結果は浜田の強打が初回終了間際にさく裂し、1ラウンド3分9秒KO勝ち。34年が過ぎた今でも語り継がれる衝撃のKO劇に、1万余の観衆は喜びを爆発させた。

 一方リング上の浜田は勝利の瞬間、笑顔も見せず、ガッツポーズもせず、興奮の国技館をぼーっと眺めていた。「左拳がもってよかった。次も試合ができるという気持ちしかなかった」と語る。

 87年7月、2度目の防衛戦に敗れ、26歳で引退。戦績は21勝(19KO)2敗1無効試合。挫折と栄光を繰り返した、太く短いボクサー人生だった。

 今年還暦を迎えるが、筋が通らないことに対して一切の妥協はない。故郷沖縄の基地問題、自身がインターハイ王者になった思い出の地・福島の復興問題などにも「目を背けずに考えてほしい」と呼び掛ける。

世界初挑戦を控えた仲里繁を指導する浜田剛史(左)=2003年3月20日、宜野湾市・沖縄ワールドリングボクシングジム

 「片方が生き延びるためにもう一方を犠牲にするのではなく、みんなが生きられる社会にしたいですよ。『強い者が勝つ』は、リングの上だけでいいでしょう」

 この信念に揺るぎはない。

記事・磯野直、スライド制作・比嘉桃乃、デザイン・新垣怜奈

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