安倍晋三首相は18日、検察庁法改正案の今国会成立を一転して断念した。「国民の皆さまからさまざまな批判があった。こうした批判に応えることが大切だ」と記者団に述べた。世論の強い反発によって断念に追い込まれた形だ。

 改正案の断念は当然だが、それだけでは不十分だ。

 継続審議にして秋に予定されている臨時国会での成立を目指しており、「政権が検察人事に介入できる」改正案の根本的な問題は何も変わっていないからだ。

 現行の検察庁法では検察官の定年は63歳で、検事総長のみが65歳となっている。

 改正案は検察官の定年を63歳から65歳に延長する内容だ。63歳になると、地検検事正や高検検事長、最高検次長検事はポストを退かなければならないが、問題は内閣や法相が判断すれば最大3年間延長できる特例規定が盛り込まれていることだ。検事総長はこの規定で68歳まで勤めることが可能になる。

 政権中枢はじめ政官財界の犯罪に切り込んできたのが検察である。特例規定で幹部人事が時の内閣に都合のいい人物を特定のポストにとどめることができると、検察の独立、厳正公平、不偏不党を根底から覆すことにつながる。

 安倍首相は国会で「恣意(しい)的な人事をしない」と否定してきたが、森雅子法相は特例規定の要件について「現時点で具体的に全て示すのは困難だ」と答弁した。定年延長を認める基準はなく、白紙委任を求めていると同じなのだ。とうてい納得できない。

 安倍首相は改正案を継続審議にするのではなく、廃案にして一から出直すべきだ。

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 方針転換の背景には、かつてない世論の批判の高まりがあるのは間違いない。

 朝日新聞社が17日付で報じた世論調査によると、改正案に「賛成」は15%にとどまり、「反対」が64%と圧倒的多数だった。内閣支持層でも「反対」が48%で、「賛成」の27%を上回った。

 普段は政治問題に関する発言が少ない著名人や芸能人らが改正案への抗議を相次いで投稿。ツイッター上では「検察庁法改正案に抗議します」とハッシュタグ(検索目印)を付けた投稿が拡大、世論のうねりがつくりだされた。

 検事総長経験者ら検察OBも改正案に反対する意見書を法相宛てに提出した。異例中の異例である。18日には東京地検特捜部長経験者らが続いた。検察人事が時の内閣の意のままになりかねないことへの強い危機感からである。

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 安倍政権は新型コロナウイルス対策と経済対策に全力を挙げるべき時だ。緊急事態宣言は39県で解除されたが、東京や大阪など八つの特定警戒都道府県では続いている。

 新型コロナの追加経済対策の裏付けとなる本年度第2次補正予算案は今国会での成立を急がなければならない。

 問題の発端は、黒川弘務東京高検検事長の定年延長を閣議決定したことである。違法の疑いが強く、改正案はそれを後付けで正当化しようとするものだ。改正案の特例規定とともに、黒川氏の閣議決定も撤回すべきである。