社説

社説[米抗議デモ激化]大統領は分断あおるな

2020年6月3日 08:22

 米中西部ミネソタ州で黒人男性が白人警官に暴行され死亡した事件で、根深い人種差別と警察の暴力に対する抗議デモが全米各地に広がっている。一部は暴徒化、警察隊と衝突するなど激化、1週間たっても収拾のめどが立たない。

 トランプ大統領は11月の大統領選への悪影響を恐れ、早期制圧に向け、連邦軍の投入も辞さない構え。和解と結束を国民に促すべき立場をかなぐり捨てたトランプ氏の強硬姿勢が混乱をあおり、対立を拡大させている。

 同州ミネアポリス市近郊で先月25日、うつぶせにされた黒人男性が白人警察官に8分46秒にわたり首をひざで地面に押し付けられ、死亡した。「息ができない」と訴える様子を撮影した動画がネット上に投稿されると、瞬く間に拡散。警官の行為は度を超えた暴力であり、黒人差別だと非難の声が上がり、各地で抗議デモが起きた。

 米メディアによると、40都市以上で夜間外出禁止令が出され、23州と首都ワシントンで州兵が動員されている。6州と13都市で緊急事態が宣言された。140都市以上で警察とデモ隊が衝突、死傷者も出ている。外出禁止令を出した都市の数は公民権運動を率いたマーチン・ルーサー・キング牧師が暗殺された1968年以来の規模という。

 人種問題に関心を示さないトランプ氏が暴徒化した一部を「国内テロ」などと決め付け、「この国は無政府主義者と極左勢力に乗っ取られている」とデモを強く批判した。一連の言動が反発を呼び、混乱に拍車をかけている。

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 米国では、警察官の黒人への暴行をきっかけにした抗議行動が繰り返されてきた。1992年には、ロサンゼルスで黒人男性を暴行した白人警察官が無罪となったことで大規模な抗議行動が広がり、55人が死亡する「ロス暴動」が発生している。

 今回のデモで「黒人への暴力はいつ終わるのだ」という叫びが上がる。公民権運動後も差別は解消されず、公権力の暴力によって黒人が犠牲になる悲劇は後を絶たない。

 新型コロナウイルスの人口当たりの感染死亡者は黒人が白人の2・4倍に達する。密集した低所得者向け公営住宅や高額な医療費など人種間格差が要因とされる。

 コロナ罹患(りかん)率が浮き彫りにした所得や医療水準の格差拡大への不満が抗議を激化させている。

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 トランプ氏は1日、ホワイトハウス近くで平和的に抗議デモを行っていた人々を催涙弾などで強制排除させた後、前日夜に放火された教会前で記念撮影をした。支持基盤のキリスト教右派に向けたアピールが目的だったという。

 感染拡大が止まらないコロナウイルス対策がうまくいかず、大統領選の接戦州で民主党候補のバイデン前副大統領に支持率でリードを許している。強硬姿勢も保守的な白人支持基盤を固めることを狙っている。

 トランプ氏はデモ対応の政治利用化をやめ、全国民に向き合い、事態を収拾すべきだ。

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