オリオンビールの新体制を率いる早瀬京鋳社長兼最高経営責任者(52)と、沖縄県内最年少首長として「デジタルファースト」を軸に行財政改革に取り組む豊見城市の山川仁市長(45)が、同市内に移転したオリオンビールの新オフィスで対談し、新たな組織のあり方や沖縄経済の展望について語った。

■最優先は県民支持の回復

 野村キャピタル・パートナーズとカーライル・グループによるオリオンビールの買収総額は約570億円。今年3月に発表した中期経営計画では、県内でのビール類販売数量シェアを現在の44%から55%に引き上げ、酎ハイ、ハイボールも含めた総合酒類販売の体制を整えて県外・海外向けの販売にも力を入れる計画を盛り込んだ。2024年中の新規株式公開(IPO)を目指している。投資を上回る企業価値の向上を達成するため、精緻な市場分析と販売戦略を基に、着実な成長の果実をとっていくことが要となる。

 

 同社の2018年度売上高は前期比2.2%減の257億円、当期純利益は同14.4%減の20億円。沖縄振興特別措置法の適用による18年度の「ビール等」の酒税軽減額は約13億円だった。軽減分を考慮すると、オリオンビールの利益の余剰額は決して大きくはない。特措法の適用が将来にわたって継続されるかが不確実な中で、酒税軽減を前提にしない販売計画をどう実行していくかが問われている。

 早瀬社長は、上場までに必要な売上高や利益目標の数値は明らかにしなかったが、新型コロナ感染拡大による計画の下振れは避けられない。それでも、「そこは大げさには考えていない。酒類事業、ホテル事業ともに新型コロナの影響に関連するトレンドはどうなっているのかを確認していて、短期的・中期的にやるべきことを整理している最中」と説明する。「企業として沖縄県民の皆さんに価値があると思われなければ、上場できるわけがない。そこだけはスポンサーとも一枚岩で、『for 沖縄』でやっている」と強調した。

 その先を見据えれば、県民の消費に観光客の需要を加えた市場規模だけでは当然、限界がある。もう一つの重要な柱となる県外やアジア市場など域外への展開をどう描くのかが、注目される。ビール事業だけで見ても、アジア各地には国内市場より割安で豊富な種類の地場商品との競合があり、製造や出荷、流通コストの吸収を含め検討課題は多い。早瀬社長は「アジア展開も、沖縄であることを最大の売りにする。マーケティング的にはそれ以外にない」と言い切った。

 所有する不動産関連では、今帰仁村の嵐山ゴルフ倶楽部の敷地で2024〜25年の開業を目指している「沖縄北部テーマパーク事業」や、本部町にあるリゾートホテル、那覇市内のホテルなどがある。新型コロナの影響でホテルが休業に入る直前、偶然にもオリオンビールグループの全社員が集まる会合を開き、一体となった連携を互いに確認し合ったばかりだった。「新型コロナの影響でビールも苦戦しているけれど、ホテルの休業も目の当たりにし、県民の皆さんが何に苦労しているのかという実感とつながりやすくなった。同じ危機を経験したことで、もっと一つになれる」と、パンデミックがもたらした副次的な側面を示しつつ、飲料事業とホテル事業を融合、連携させた取り組みを強化していく考えを語った。

■県民に喜ばれるものかどうか

 早瀬社長率いる新体制では、マーケティングやプロモーション分野において、国内外の企業で経験豊富なメンバーが入り、社会貢献事業(CSR)では県内でキャリア教育支援に携わってきた専門家を新たに迎えた。社員全体の98%を占めるという地元出身者に、各分野のプロの知見が加わることで新たな気付きなどはあっただろうか。「マーケティングのプロといっても、そんな堅苦しいものではない。シンプルにお客様はどう思っているの?沖縄県民は喜ぶの?ということだけ」と早瀬社長は言う。

対談するオリオンビール早瀬社長(左)と山川豊見城市長

 社員同士の日常会話から出てくるちょっとしたアイデアをぶつけ合える場を増やすことが、アイデアの吟味を促し、実現するまでの速さにつながっている、とみる。販売が好調だったアルコール度数9%の酎ハイブランドの生産を停止したのも、健康被害の情報や、沖縄でアルコール依存症が増えている現状を耳にし、社員にどう思うかを聞いたことから議論が始まった。「沖縄は長寿の県だったんだよね、沖縄のために良くないなら、やめちゃおうかと。反対する人は誰もいなかった」と振り返る。

 指示や前例で動くのではなく、社員が自ら考えるようになった。早瀬社長は「例えるなら、これまではバーナーで燃やして表面だけ熱くなっていたけれど、炭に火がようやくついてきた感じ。あとは風だけ送ってあげればいい。それがスピード感なのかもしれない」と語った。

■変化への対応、自分たちのルールで

 新型コロナウィルスによる外出自粛によって外食や旅行などが制限され、消費形態が変わる中、マーケットを取り巻く環境も急速に変化している。世界的な感染終息にはまだ時間がかかる見通しだが、組織のマネジメントを担う両者はこうした変化をどう捉え、対応していくのだろうか。

 早瀬社長は「オンラインもオフラインも、人のつながりがまた、注目されるようになる。コロナで全部が変わると思わない方がいい。オンラインでのやり取りを続けるほどに、(直接的な)コミュニケーションが欲しくなる。テイクアウトやデリバリーが当たり前になったように、楽しみ方が増えると思う。過度に悲観するのではなく、事実だけを見て自分たちのルールを作っていく。人のルールには乗らない」といい、消費者の需要の見極めと掘り起こしに注力する考えを語った。

山川市長

 豊見城市は2月末、県内自治体では初めて「デジタルファースト宣言」を発表した。山川市長は「行政もペーパーを使わない時代、どこからでもセキュリティ万全で仕事ができる環境を整えたい」と話す。市民サービスや事務作業などのデジタル化を重点的に進めていく計画で、「行政も民間の動きと同じスピード感が必要だと感じている」。決断と実行のスピードで引き続き、早瀬社長の手腕に学ばせてほしいとアピールした。

 本年度から豊見城市では、企業が特定の自治体の応援したいプロジェクトに寄付ができる「企業版ふるさと納税」の導入が認められ、「豊見城市ワク・ドキこども未来プロジェクト」をテーマに寄付を呼びかけていくという。オリオンだけではなく、地域の課題解決に向けて様々な企業とのコラボレーションが生まれる可能性がある。

■キャリアの選択肢増やす役割

 企業も行政も、働く人の意識と行動で変革を起こすことができる。外資系企業を渡り歩いてきた早瀬社長から、沖縄の若い人たちの状況はどのように見えるだろうか。「沖縄か内地かは問題ではなくて、その人がやれる可能性が試せればそれでいい。自分でどんなキャリアを作りたいかが大切だと思う。我々は選択肢を与えることが役割で、選ぶのは自分自身だ」と説く。一方で、沖縄では、地理的、文化的に恵まれた環境にあるが、「内地より情報が少なく、キャリアの選択肢が少ないのは事実。知らないと大人になって後悔することがあるかもしれない。今はスマホ一つで英語も学べるし、海外の情報も得られる」。キャリアの選択肢を増やし、多様な働き方を用意する企業の役割の重要性を語った。

早瀬社長

 沖縄を代表するオリオンビールの2019年の買収劇は、県経済界だけではなく、消費者である県民にとっても大きな衝撃だった。経営刷新を進めつつ、株式上場や業績向上を明確なミッションに掲げながら、次々と打ち出す商品展開の手法は地元企業にとって少なからぬ関心事であり、新鮮さを感じている県民も一定いるだろう。

■現場のためトップが汗をかく

 オリオンビールの改革の試みからは、経営陣の「マネジメント力」を機能させる基礎に社員同士のコミュニケーションを活発にする風土づくりがあることがうかがえる。早瀬社長が就任早々に、社長を筆頭にした従来のピラミッド型組織を逆さまにするようなイメージを伝え、消費者や営業、販売現場の社員のために管理職や役員が汗をかくという、意識の転換を促したこともその一つと言える。

 山川市長も、現場のために自ら汗をかくという早瀬社長の考え方に共感する。「東京に出張した時には休まずに、いろいろな企業を訪ねて『とにかく話を聞いてください』といって営業している。歩いていると情報が入ってくるようになって、企業版のふるさと納税にもいち早く取り組めた」と話す。

 「我々のDNAとして、新しいことをやろうと思えば、色々できそう」と早瀬社長。「沖縄のビール」として根付いた県民ブランドが豊見城を起点にどう進化するのか、こらから益々注目の的になりそうだ。

                 (Polestar Okinawa Gateway 座安あきの)

》》》 対談(上)オリオン発、沖縄初を豊見城から