「めぐみちゃん」と呼ぶ口調に、13歳で北朝鮮に連れ去られた娘への愛情が感じられた。失踪前日、45歳の誕生祝いに娘から贈られたくしを肌身離さず持っていたという

▼拉致被害者家族会の初代代表で87歳で亡くなった横田滋さんの葬儀が8日、川崎市内で営まれた。娘との再会はかなわず、遺影の温和な表情に隠された無念さはいかほどか。妻早紀江さん(84)の「天国で待っていて」との言葉にやるせなさが募る

▼めぐみさんの「死亡」が伝えられた2002年。顔をゆがめて号泣した姿が印象に残る。渡された遺骨は別人のもの。いちるの光が見えては消える。政治に翻弄(ほんろう)されながら、全国を回った講演会は1400回を超えた

▼「世間が忘れたら、拉致問題はどこかへ行ってしまう」。著書「めぐみへの遺言」にあるように、危機感が突き動かしたのだろう。沖縄講演の際は、拉致の可能性が排除できない「特定失踪者」家族とも会い、辛苦に耳を傾けた

▼在日コリアンに対する差別には異を唱えた。著書には高校の授業料無償化で「拉致を理由に朝鮮学校に補助金を出さないのは筋違い」と記す。根底にあったのは人権意識

▼安倍晋三首相は訃報に「断腸の思い」と語った。拉致問題でどれほど日朝対話を図ろうとしたのか。政府認定被害者の親で存命なのは2人。時間は多くない。(大門雅子)