沖縄県の玉城デニー知事は23日の沖縄全戦没者追悼式の平和宣言で、米軍の新基地建設が進む名護市辺野古と大浦湾の周辺の海を「うちなーんちゅ(沖縄人)のかけがえのない財産」と表現し、「次の世代に残すため、われわれ世代が未来を見据え、責任を持って考えることが重要」と述べた。辺野古移設の断念には言及せず、翁長雄志前知事や昨年の自身の平和宣言に比べ、後退したとの指摘がある。

沖縄全戦没者追悼式で平和宣言を読み上げる玉城デニー知事=23日午後、糸満市摩文仁・平和祈念公園

 玉城知事は人権や自治を抑圧された米施政権下でも文化を守り、沖縄の心「チムグクル」を育みながら復興と発展の道を力強く進んできた歴史を評価。一方、米軍基地が集中することで、航空機騒音や環境問題によって「県民生活に多大な影響を及ぼし続けている」と訴えた。

 また、新型コロナウイルス感染症に触れ、「病気への恐れが不安を呼び、差別や偏見を生み出し、社会を分断する」と強調。世界の人々が立場や違いを認め合い、協力し、信頼することが重要と呼び掛けた。

 被爆地の広島市長と長崎市長から初めてビデオメッセージが届いたことから「人類が二度と『黒い雨』や『鉄の暴風』を経験することがないよう、心に平和の火をともし、守り続ける」と決意を新たにした。

 2001年創設の沖縄平和賞の第1回受賞者で、昨年末にアフガニスタンで凶弾に倒れたペシャワール会の中村哲医師の活動をたたえ、「人々が平和に生きることとは何かを学ばせていただいた」と感謝した。昨年に引き続き、英語としまくとぅばでも平和への思いを込めた。

■玉城デニー知事の平和宣言(全文)

 戦争終結75年の節目を迎えようとする今日、私たちは、忌まわしい戦争の記憶を風化させない、再び同じ過ちを繰り返さない、繰り返させないため、沖縄戦で得た教訓を正しく次世代に伝え、平和を希求する「沖縄のこころ・チムグクル」を世界に発信し、共有することを呼びかけます。

 戦後、沖縄県民は人権と自治が抑圧された米軍占領下にある中、先人から大切に受け継がれてきた文化を守り、チムグクルを育みながら、復興と発展の道を力強く歩んできました。

 しかしながら戦後75年を経た現在もなお、国土面積の約0・6%に米軍専用施設の約70・3%が集中し、米軍人・軍属等による事件・事故や航空機騒音、PFOS(ピーホス)などによる水質汚染等の環境問題は、県民生活に多大な影響を及ぼし続けています。

 名護市辺野古で進められている新基地建設の場所である辺野古・大浦湾周辺の海は、絶滅危惧種262種を含む5300種以上の生物が生息しているホープスポットです。世界自然遺産への登録が待たれるヤンバルの森も生物多様性の宝庫であり、海と陸が連環するこの沖縄の自然体系そのものが私たちウチナーンチュのかけがえのない財産です。

 この自然豊かな海や森を次の世代、またその次の世代に残していくために、今を生きる我々世代が未来を見据え、責任を持って考えることが重要です。

 県民の平和を希求する「沖縄のこころ」を世界に発信し、国際平和の創造に貢献することを目的として、2001年に創設した沖縄平和賞の第1回受賞者であるペシャワール会の中村哲医師が、昨年の末、アフガニスタンで凶弾に倒れるという突然の悲報がありました。中村先生は人の幸せを「三度のご飯が食べられ、家族が一緒に穏やかに暮らせること」と説き、現地の人々が生きるために河を引き、干からびた大地を緑に変え、武器を農具に持ち換える喜びを身をもって示されました。私たちは、中村先生の「非暴力と無私の奉仕」に共鳴し、その姿から人々が平和に生きることとは何かを学ばせていただきました。

 しかし、依然として世界では、地域紛争やテロの脅威にさらされている国や地域があり、貧困、飢餓、差別、人権の抑圧、環境の破壊などの構造的な暴力が横行しています。

 さらに、全世界で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、人々の命と生活が脅かされる未曽有の事態にあり、経済活動にも甚大な影響が生じています。この感染症は、病気への恐れが不安を呼び、その不安が差別や偏見を生み出し、社会を分断させるという怖さを秘めています。

 だからこそ命(ぬち)どぅ宝、生きることへの尊さを、世界中の人々がそれぞれの立場や違いを認め合い、協力し、信頼し合うことにより、心穏やかで真に豊かな生活を送ることができるよう、国連が提唱するSDGs(エスディージーズ)の推進をはじめとした人間の安全保障の実現に向け、国際社会が一体となって取り組んでいくことが今こそ重要ではないでしょうか。

 ここ平和祈念公園には、国籍や人種の別なく戦争で亡くなられた全ての方々の名前を刻む「平和の礎」があります。礎の前で、刻まれた名前をなぞりながら生きていた証しを感じ、いつまでも忘れないとの祈りを寄せる御遺族の姿は、私たちの心に深々と染み入ってきます。

 平和の広場の中央には、被爆地広島市の「平和の灯」と長崎市の「誓いの火」から分けていただいた火と、沖縄戦最初の米軍の上陸地である座間味村阿嘉島で採取した火を合わせた「平和の火」がともされております。私たちは、人類史上他に類を見ない惨禍を経験されたヒロシマ・ナガサキと平和を願う心を共有し、人類が二度と「黒い雨」や「鉄の暴風」を経験することがないよう、心に「平和の火」をともし、尊い誓いを守り続ける決意を新たにします。

 そして今こそ全人類の英知を結集して、核兵器の廃絶、戦争の放棄、恒久平和の確立のため総力をあげてまい進しなければなりません。

 此(く)りまでぃに有(あ)てーならん戦争(いくさ)因(ゆえ)に可惜(あたら)命(ぬち)、失(うしな)みそーちゃる人々(かたがた)ぬ魂が穏々(などぅなどぅー)とぅなみしぇーる如(ぐとぅ)御祈(うにげー)っし、此(く)りから未来(さちじゃち)ぬ世(ゆー)ねー戦争(いくさ)ぬ無(ねー)らん弥勒(みるく)世(ゆー)(平和)招(まに)ち、御万人(うまんちゅ)ぬ喜(ゆるく)びぬ満(みつ)ち溢(あ)んでぃぬなみしぇーし心底(しんてぃー)から念願(にんぐゎん)っし、行(い)ちゅる所存(うむい)やいびーん。

 I pray that the souls of those who lost their lives in past wars may rest in peace. I will continue to pray for peace and happiness in the future of mankind.

 本日、慰霊の日に当たり、犠牲になられた全てのみ霊(たま)に心から哀悼の誠を捧(ささ)げるとともに、私たちは、戦争を風化させないための道のりを真摯(しんし)に探り、我が国が非核平和国家としての矜持(きょうじ)を持ち、世界の人々と手を取り合い、この島が平和交流の拠点となるべく国際平和の実現に貢献する役割を果たしていくために、全身全霊で取り組んでいく決意をここに宣言します。

2020年6月23日 沖縄県知事玉城デニー

 (しまくとぅばと英語の訳)これまでの戦争による犠牲になった人々の魂が安らぎあらんことを祈り、これからの人類の未来には平和と喜びあらんことを祈り続けます。