川からあふれた濁流が町を住宅地を襲った。がれきを巻き込みながら茶色い水が家々をのみ込んでいく。特別養護老人ホームはほぼ水没した。のどかな地域の光景は一変した。

 梅雨前線停滞の影響で4日、熊本県南部で猛烈な雨が降り、河川の氾濫や土砂崩れが相次いだ。

 犠牲者は5日夜までに確認されただけで22人。18人が心肺停止状態となり、安否が確認できない行方不明者が11人いる。道路の寸断で100を超える集落が孤立し、被害の全容はまだ明らかになっていない。

 とにかく今は人命救助が最優先だ。警察や消防などには、被災者の捜索や救助に全力を挙げてほしい。ただ、現地では、なお大雨の恐れがあり、二次災害に警戒する必要がある。

 甚大な被害をもたらしたのは、2018年の西日本豪雨などの一因にもなった「線状降水帯」だ。積乱雲が次々と発生し、帯状に連なって雨の地域ができる。数時間にわたり同じ場所を通過したり停滞したりするため、総雨量が多くなる。その線状降水帯が今回、同県内を流れる球磨川の流域と重なった。川は上流から下流にわたって氾濫し、一部では堤防が約20メートルにわたって決壊した。

 球磨川は、山に囲まれた盆地から狭い谷を抜けて海に流れ込む。水害の起きやすい地形だと専門家は指摘する。

 記録的雨量と特徴的な地形がもたらした災害。命を守る対策は十分だっただろうか。

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 気象庁が、最大級の警戒を呼び掛ける大雨特別警報を発表したのは4日午前4時50分。各地で雨脚が強まり始めたのは、多くの人が就寝中の3日深夜から4日未明だった。

 線状降水帯の発生は予測が難しい。このため発表が遅れたが気象庁は昨年10月、台風19号の上陸に先立ち「大雨特別警報を発表する可能性がある」とわざわざ示したことがある。

 夜間や雨が強まってからの避難はかえって危険だ。前日の日中に避難を呼び掛けていれば救えた命もあったのではないか。正確な予想は難しくとも、いち早く避難を呼び掛けることが大事だ。気象庁には今回の対応を検証した上で結果を公表してもらいたい。

 浸水した球磨村の特別養護老人ホームでは、入所者14人が心肺停止状態で見つかった。過去の水害でも高齢者施設の入居者が犠牲となっている。災害弱者である入所者の避難対策は十分だったのか。

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 被災地の避難所では、検温や消毒、十分な換気など新型コロナウイルスの感染予防対策も求められている。発熱症状が出た人には専用スペースを確保するなど、きめ細かな対応が必要だ。

 密集を避けるため、政府はできるだけ多くの避難所の開設や、ホテル・旅館の活用も検討するよう促している。

 地元自治体だけでは対応が難しい面もある。住民を災害からも感染からも守るため、政府は積極的に支援してほしい。