「子どもを核にしたまちづくり」を掲げ、関西圏で唯一人口がV字回復している兵庫県明石市。中学生までの医療費無料化や第2子以降の保育料無料化など、全世帯対象の子ども施策を次々と打ち出し、子育て世代を呼び込んでいる。子どもの貧困に関わる取り組みにも積極的だが、泉房穂(ふさほ)市長(52)は「貧困対策で貧困は解決しない」と言い切る。ユニークな先進自治体の戦略を聞いた。(「子どもの貧困」取材班・田嶋正雄)
泉市長は2011年に初当選し、現在2期目。中学生までの医療費無料化、離婚時の養育費や面会の合意書作り支援など、特色ある子ども施策を進めてきた。9月からは第2子以降の保育料を完全無料化。17年度以降は児童養護施設の新設や中核市移行に伴う児童相談所の設置も予定する。
「子どもにかかるコストを誰が負担すべきか。子は親の『持ち物』と考えれば親の責任だが、そうではない。明石の子は社会全体で育て、コストは社会が負担する。欧州では主流の考え方だ」
同市の特徴は対象者を限定しないユニバーサルな施策。子ども医療費も第2子以降の保育料も家庭の所得に関係なく一律無料だ。
「対象者の絞り込みは難しく、時間がかかる。どの家が貧困かという議論に子どもを巻き込んでしまう恐れもある。そこにかけるコストやエネルギーを事業そのものに回した方がいい」
だが中間層や富裕層も含めれば財政を圧迫しかねない。財源はどうするのか。
「要は優先順位の問題。明石市は子どもを後回しにしない。第2子以降の保育料無料化には7億円かかるが、最初に確保し、残りでほかの予算を編成する」
市の人口は12年に29万人割れ寸前まで減ったが13年から増加に転じ、16年8月現在、29万8千人まで回復した。施策の効果もあり、20~30代の子育て世代の転入が目立っている。
「人が増え、地価が上がり、住民税や固定資産税の収入が増えている。税収アップで住民サービスをさらに拡充できる。そんな好循環をつくり出していきたい。特別なことではなく、全国どこの自治体でもできる。首長が本気かどうかが問われている」