明石市は2018年度に中核市移行を予定する。1年後の19年4月に児童相談所を設置する方針だ。国は中核市に設置を促しているが、開所は金沢市と横須賀市だけにとどまっている。

 13年度、中核市に移行した那覇市では議論は進んでいない。現在県の中央児相とコザ児相の2カ所が県内全域を担当しているが、那覇市が設置すれば県の負担軽減にもつながる。

 泉房穂・明石市長は「中核市になり、国から権限が最も多く委譲されるのは福祉分野。その代表例といえる児童相談所を置かないなら、何のための中核市か分からない」と問い掛ける。

 「児童相談所のポイントは単に施設数だけの問題ではない。障がいや生活保護などの住民サービスを直接担当しない都道府県は家庭の情報を持っておらず、自治会や民生児童委員などの地域とのつながりもない。児童虐待防止に実効性が伴わない理由の一つは都道府県任せの現状にある。児童相談所は市が持つべき施設だと思っている」

 市内全ての子どもの様子を把握するため、乳幼児全員の面接を14年度から始めた。乳幼児検診を受けない約2%の子どもは、保健師が日中や夜間の家庭訪問で健康状態を確認している。

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 離婚時の子ども支援も、国に先行して取り組んできた。

 「行政か裁判所が子どもの立場で不利益を被らないようにするのが他国では当たり前だが、日本は放置してきた。子どもの貧困の原因にもなっている」

 養育費や面会交流の取り決め作りを支援したり、「子どもと親の交流ノート」(養育手帳)を配布するなど全国の自治体のモデルとなり、国でも議員立法の手続きが進み始めた。

 「夫婦でなくなっても、子どもにとっては父親と母親。両方から栄養と愛情を受けるのは子どもの権利だ。強制はできないが取り組みを促し、履行のために助言するのは自治体の役割だ」

 ひとり親家庭の相談も強化。児童扶養手当の現況届を提出する8月は専門窓口を設け、困りごとなどの相談にも応じる。

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 子どもの貧困が注目される中、泉市長は「日本は子どもにお金を使わなすぎる。子どもの貧困を本気でなくす気なら、シンプルでユニバーサルな子ども施策が必要だ」と言い切る。

 「わずかな予算で“救貧”施策をやっても社会全体での効果は薄い。必要なのは中間層が恩恵を実感できる施策だ。行政の本来の仕事は病の原因を断ち、予防すること。傷口にばんそうこうを貼るだけでは駄目だ」

 16年度からの5カ年計画で人口30万人、年間出生数3千人、本の年間貸し出し数300万冊の「トリプルスリー」達成を目標に掲げる。明石駅前には従来の4倍の広さの市民図書館が来年1月に開館する。「こども図書室」や一時保育ルーム、中高生が無料で利用できる楽器がそろう音楽スタジオなども併設される。

 「強調したいのはお金の話だけでなく、総合的な子ども支援の重要性だ。現代の貧困は経済的問題だけでない。文化的な充実も促進し“子どもに手厚い街”を打ち出していく。社会が縮小に向かう中、前例踏襲では昨日と同じ暮らしは守れない。別に変わった市長が変わった施策をやっているわけではない。本気になれば、全国どこでもできることをやっているだけだ」(「子どもの貧困」取材班・田嶋正雄)

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