5月のゴールデンウィーク。
 日が暮れて、ベランダの洗濯物を取り込もうとしていたら、突然、右腕に何かが飛んできた。
 「ええええええええええええええ」と悲鳴を上げた正体は、沖縄で暮らしている人ならお分かりだろう。誰からも嫌われている虫、ゴキブリである。

 黒に近い深い茶色で、角のような、ながーーーい触覚のようなものが揺れて、私を見ている。思わず、思い切り腕を振り払いながら、

 早く飛べ!
 私の視界から消えてくれ!
 もうやだ(*_*)
 
 心で何度念じたのだろう。
 ゴキブリと対峙する時間は数十秒であっても5分にも感じるほど長いものである。

 無事に飛んでいったが、ゴキブリの足が張り付いていた肌に残る“ぬくもり”は寝るまで消えることはなかった。

 沖縄県民なら、何かしらゴキブリとのエピソードを持っているだろう。夏の夜は、道を歩くだけで、ゴキブリたちがあちこちに動き回っている姿が街頭にぼんやり照らし出される。
 
 台所では、王様のように突然鎮座して、何かを食べている。(私は小学3年生のころ、ガリガリという乾いた音が、無音の部屋に響き渡る夜、キンピラゴボウを食べている姿を見て、ゴボウの幅とゴキブリの口の幅は同じなのかと感心したし、自由だなとも思った。)

 肌を噛まれる可能性だってある。(噛まれると、かなり痛い。学校のトイレで足を噛まれた時、悲鳴を上げた。)

 網戸を閉め忘れたら、とてつもないジャンプ力で家の中に飛び込んでくる。

 本当に、隙が無いよね。

 つぶしてしまうと、不気味な白い卵が出てきてしまうかもしれないから、どうやって息の根を止めようか考える。殺虫剤で追いかけ、新聞でたたき、それでもまた次のゴキブリがやってくる。沖縄県民は、ゴキブリにおびえ、ゴキブリと闘う毎日だ。壮絶である。

 (でも、沖縄県民、負けないよ!)

 ただ、私は、肌に残っていたゴキブリの“ぬくもり”を感じながら、そういえば、ゴキブリのことを何も知らないなと考え始めていた。

 相手のいいところを見つけよう、親切にしようと教えられてきたのに、ゴキブリに至っては嫌いな理由が、勝手に、一方的に、嫌いだ。

 何かきっかけがあったのだろうか。
 学校の先生や親に教えられたんだっけ。
 いつの間にかすり込まれたんだっけ。
 相手のことを全く知らないというのに。

 記者として、これは伝えなければならない使命だと確信した。
 なぜ、ここまで嫌われているのか。
 なぜ、こんなにも追いかけてくるのか。
 本当に、汚いのか? 
 ほんとうの正体を知ってから嫌おうじゃないか。
 嫌いな理由をビジュアル以外で見つけてみようではないか!

 ゾクゾクするかもしれないけれど、大事なことは一歩を踏み出すことだとも学んできた。
 私も好きではないけれど、いま、ゴキブリのリアルな写真を見ながら、文献を漁りながら、日々、目を背けそうになりながら、闘いながら、執筆している。
 読んでくれているあなたが、私と共に飛び込んでくれると信じて。

 さぁ、ゴキブリの世界へようこそ。

プロローグ

第1章 最高の居場所 愛される理由 

 (1)~リゾートの片隅で~ ※公開

 (2)~見ようとして見えないもの~ ※公開

 (3)~ゴキブリの正体~ ※公開

 (4)~愛される理由~ ※準備中

第2章 DNA

第3章 金の切れ目は縁の切れ目

第4章 オリンピックのサプライズ

第5章 プロパガンダ

第6章 そっと口づけ

第7章 世界制覇

第8章 愛のかたまり

第9章 消えない疑惑

エピローグ