木村草太の憲法の新手

[木村草太の憲法の新手](134) 政府のコロナ対応 不明確な目標 根本的問題 基本的対処方針改定を

2020年8月16日 05:00

 新型コロナウイルスの感染が再び拡大している。政府対策本部の対応には、目標不明という根本的問題がある。

 新型インフルエンザ等対策特措法18条は、政府対策本部に基本的対処方針の策定を求める。3月28日、「感染者数を抑え」「医療提供体制や社会機能を維持する」ことが基本的対処方針の目標として示された。その後、方針は何度か改定されたが、この目標自体は維持されている。

 今回のウイルス対応には、大きく分けて二つの方向がある。一つは「封じ込め」だ。新規感染者をゼロにした上で、検疫の徹底や、無症状者を含めた大量検査などで、再燃・流入を防ぐ。台湾やニュージーランドは、現状、封じ込めに成功していると言えよう。もう一つは、「集団免疫戦略」だ。医療崩壊を起こさない範囲で感染拡大を許容し、多くの人が免疫を獲得して自然終息するのを待つ。

 日本政府は、どちらの方針をとるのか。基本方針の「感染者数を抑える」という文言は、新規感染者が出ないところまで封じ込めようと言っているようにも、医療崩壊しない程度に抑えればよいと言っているようにも読める。

 実際の日本政府の対応を見ても、この点は曖昧だ。例えば、2月23日の加藤勝信厚労相の記者会見では、「最終的」な目標は、封じ込めではなく、「流行のピークを引き下げていく」ところに置くとしていた。

 他方、安倍晋三首相は、4月7日の緊急事態宣言発令時の記者会見で、「二週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせ」、「爆発的な感染者の増加を回避できるだけでなく、クラスター対策による封じ込め」を目指すとしていた。

 政府の専門家会議も、5月1日の提言で、「感染の拡大を前提とした集団免疫の獲得」戦略は「とるべきではない」としていた。少なくとも緊急事態宣言時には、政府対策本部は封じ込めを目標にしていたようだ。

 4月から5月の緊急事態宣言に伴う大規模自粛により、感染確認数も検査陽性率も大幅に減少した。この時期、封じ込めも非現実的な目標ではないと感じた人も多いだろう。しかし、6月以降の結果を見ると、封じ込め戦略としては、失敗が明らかだ。封じ込めを目指すなら、再度の緊急事態宣言や、大量検査・大量隔離策、接触確認アプリによる自己隔離要請の強化とその支援など、かなり強烈な感染抑制策が必要だろう。しかし、政府は、そのような対応をとっていない。

 政府は、封じ込めを諦め、「現在のペースでの感染拡大を許容する」との選択をしたのかもしれない。もしそうなら、その方針や被害想定などを公表し、国民の評価を受けるべきだ。集団免疫戦略をとった場合、終息までに数万から数十万の死者が出ると指摘されている。この被害を国民が受け入れるか否かは、国民に聞いてみなければ分からない。

 現状、目標が不明確なので、目標の妥当性も、目標達成に向けた手段の適切性も、国民は評価しようがない。具体的な目標なしに、感染拡大防止の努力を続けろと言われても、むなしく感じるだろう。基本的対処方針を改定し、明確な目標を定めるところから始めねばならない。

(東京都立大教授、憲法学者)

=第1、第3日曜日に掲載します。

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■木村草太 著
■四六判/211ページ

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