政府、自民党内で、敵基地攻撃能力の保有論が再び台頭している。

 自民党は、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画撤回を受け、今後のミサイル防衛のあり方として「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」の検討を安倍晋三首相に提言した。

 党内の根強い慎重論に配慮し「敵基地攻撃」の言葉は使わなかったが、首相は「提言を受け止め、新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」と述べた。政府は国家安全保障会議(NSC)で検討し、来月中にも一定の方向を示す見通しだ。

 相手領域への攻撃は、攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使する専守防衛から逸脱する。憲法に基づき、日本が長く保ってきた安全保障の基本方針を転換する議論が拙速に行われるのは極めて危険だ。

 他国からの攻撃が切迫し、それを防ぐ他の有効な手段がない場合、敵地を攻撃する行為は国際法上、違法な先制攻撃でなく正当な自衛権の行使とされる。政府も法理論上は可能との立場を取る。

 だが、東西冷戦の最中や1990年代に北朝鮮の弾道ミサイルが上空の宇宙を通過する中でも日本は専守防衛を堅持してきた。自民党の一部からはたびたび保有論が出されたが、そうした能力をあえて獲得してこなかった。与党のうち公明党も慎重な立場だ。

 新型コロナウイルス感染拡大で国民に不安が広がる中、政府がイージス・アショアの代替という体裁でなし崩しに専守防衛を逸脱するのは到底認められない。

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 敵基地攻撃のもう一つの問題は、違法な先制攻撃との区別が明確でないことだ。先例も実はそう多くない。

 62年のキューバ危機の際、米国は「武力の行使」とソ連に受け取られるのを避けるため、海上封鎖の法的根拠を自衛権とはしなかった。

 最近では今年1月、イランの司令官をミサイル攻撃で殺害した際、米国は将来の自国民への危険を理由に「自衛」と主張した。しかし具体的内容を提示せず国際社会の強い批判を浴びた。

 政府は「『東京を灰じんに帰す』と宣言し、ミサイルを屹立(きつりつ)させた」(2003年、石破茂防衛庁長官)時点で敵基地攻撃が可能と説明する。ただ、現実の国際政治でこうした分かりやすい場面は想定しがたい。

 一方で中国との関係はぎくしゃくし、北朝鮮との対話も絶えて久しい。日本に必要なのはまず外交努力である。

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 集団的自衛権の行使を閣議決定による憲法解釈変更で可能とし、最新鋭ステルス戦闘機F35が「十数機程度運用し得る程度」だから護衛艦の「空母化」も問題ないとするなど、安倍政権下では専守防衛の形骸化が進んできた。敵基地攻撃能力の保持は決定的な転換点となる。

 こうした経緯を考えると、政府NSC内部の議論だけでは不十分だ。野党は新型コロナ対応を巡り臨時国会召集を要求している。政府は速やかに応じた上で、敵基地攻撃能力の論議も含めて国民の疑問に答えるべきだ。