インド洋の島国モーリシャス沖で、日本の貨物船が燃料の重油を大量に流出させ、周辺の環境に深刻な被害を与えている。

 当事者の企業が責任をもって対応するのは当然だが、日本政府も積極的に関わり、環境が回復するまで地元への支援に力を注いでもらいたい。

 事故が起きたのは現地時間7月25日。岡山県の長鋪汽船が所有し、商船三井が手配した貨物船が座礁し、8月6日以降、千トン以上の重油が漏れた。

 海上の重油は、ほぼ回収されたというが、難航しているのは海岸に流れ着いた重油の除去だ。国連の衛星データ分析では、約30キロに及び海岸へ漂着したと推定されている。

 どろりとした黒褐色の重油を砂浜の住民らがスコップでかき集め、バケツを次々と満杯にしていく。報じられる映像に胸が痛む。

 特に除去が困難なのは、マングローブ林の奥まで入りこんだ油だという。細い根が絡み合い、作業を難しくしている。薬剤を使えば生態系への影響が出かねず、人手に頼らざるを得ない。

 魚や鳥などさまざまな生き物が集まり、豊かな生態系を育むマングローブは「生命のゆりかご」ともいわれる。現地には国際的に重要な湿地を保全するラムサール条約に指定された区域もある。

 島の浅瀬に広がるサンゴ礁への影響も心配だ。

 モーリシャス政府は、野生生物が危機的な状況にあるとして「環境緊急事態」を宣言した。事故を起こした船の当事国として、重く受け止めなければならない。

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 日本政府は専門家チームを現地へ派遣し、油除去への助言、流出の状況を調査した。結果を踏まえ、必要物資を送るなど早急な対応を求めたい。

 歴史的に関係の深いフランスやインドなども既に緊急支援に動いている。連携し支援に取り組んでほしい。

 過去の油流出にどう対応したかも、課題を含めて参考になろう。1997年には日本海でロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」が沈没し、流出した重油が9府県の沿岸に漂着した。2018年に東シナ海でタンカーが沈没した際は、沖縄でも油状の塊が確認されている。

 一度汚染された自然環境の回復は容易ではない。モーリシャスの環境保護団体は「元に戻るのに何十年もかかるかもしれない」と指摘する。

 長期的視点に立った息の長い支援が必要だ。

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 安全な航行を怠った疑いで逮捕されたインド人船長らは島に近づいた理由を「インターネットに接続して故郷の家族と通話したかった」と供述しているという。事故の原因究明も急がなければならない。

 現地では主要産業の観光や漁業への影響が懸念されている。マスクをせず除去作業をした住民の中には、健康被害が出た人もいるという。事故は人々の暮らしまでも脅かしている。

 事故から1カ月。日本の船が引き起こした深刻な事態に、私たちはもっと目を向けるべきだ。