安倍晋三首相が誇った看板政策「アベノミクス」。日銀による大胆な金融緩和、機動的な財政出動、規制緩和を中心とした成長戦略-を「3本の矢」と位置付け、自ら旗を振ってきた。

 輸出企業に不利な円高の是正や、株価の上昇には、一定の成果を上げた。世界的な景気回復も追い風となり企業の業績は改善し、訪日外国人客も伸びた。一方、最大の目標だったデフレからの完全脱却には程遠く、物価上昇率は目標の2%に届かなかった。「道半ば」のまま失速した格好だ。

 政権はアベノミクスで経済の好循環を意図していた。企業の業績が改善すれば設備投資や賃金が増え、その結果、個人消費が拡大し、景気が改善する-というものだ。

 法人税減税などで企業活動を後押ししたが、肝心の賃金は伸び悩んだ。企業が先行きの不安から利益を内部留保に回したためだ。

 安倍首相は辞任を表明した会見で「400万人を超える雇用をつくり出した」と実績を強調した。確かに雇用は拡大したが、賃金が低く立場の不安定な非正規労働者が大半だった。

 結果的にアベノミクスの恩恵を受けたのは、大企業など一部にとどまった。大企業や富裕層が潤えば、それが滴り落ちるように地方や中小零細企業にも行き渡る、という「トリクルダウン」理論のシナリオ通りにはいかず、かえって格差を広げている。多くの国民にとって景気回復の実感は乏しいものとなった。

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 2012年12月の第2次政権発足とともに始まった景気拡大は、実際は18年10月に終わっていたと最近認定された。政権が誇示していた「戦後最長景気」は幻に終わったのだ。

 経済政策としての限界があらわになったが、それだけではない。負の要素が残る。

 常態化した超低金利は、金融機関の収益を圧迫する「副作用」が目立つ。日銀による国債の大量買い入れなどの政策は、いまだ出口が見えない。

 財政出動の大盤振る舞いも巨額の債務を将来に残す。政府が目標とする国と地方の基礎的財政収支の黒字化は、20年度から25年度に先送りしたが、既にその達成は絶望視されている。

 本来は経済の地力を高める成長戦略こそ地道に進めるべきだった。それがおろそかになっていたのは、名目国内総生産(GDP)600兆円などの政策目標が看板倒れとなっていることからも明らかだ。

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 新型コロナウイルス感染拡大の影響で国内景気は大きく落ち込み、アベノミクスで積み上げてきた「果実」は消し飛んだ。

 新政権は、その中で経済再生に取り組まなければならない。コロナ禍で国民の命や生活を守るための支出は必要だ。一方で、弊害も指摘される大規模な金融緩和については出口を議論すべきである。

 日本企業の課題である生産性向上や、コロナ対応でも必要性が指摘されたデジタル化の推進など、経済成長を促す戦略を着実に進めてほしい。