琉球銀行と沖縄タイムス社が発起人となり、県内企業を支援する投資会社「琉球キャピタル」が5月、立ち上がった。新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受ける企業の支援を急ぎ、およそ3カ月で県内企業26社から57億円の出資を集め、「琉球ファンド1号投資事業有限責任組合」を組成。9月から運用を本格化させる。12月末まで出資企業を募り、総額100億円を目指す。ファンド設立の背景や狙いなどを琉銀の川上康頭取、琉球キャピタルの池端透社長に聞いた。聞き手は沖縄タイムス社の武富和彦社長。(文中敬称略)

 

■座談会参加者

 川上康氏(琉球銀行頭取)

 池端透氏(琉球キャピタル社長)

 司会・武富和彦(沖縄タイムス社長)

コロナ禍 観光業への支援急務

■設立の経緯

 武富 琉球銀行の呼び掛けで、県内企業を支援するファンドが立ち上がりました。新型コロナウイルスの感染拡大で経済が萎縮(いしゅく)する中、思い切った決断をされたと思います。設立の経緯をお聞かせください。

かわかみ・やすし 1961年生まれ。85年琉球銀行入行。取締役営業統括部長、取締役総合企画部長兼関連事業室長、常務取締役などを経て2017年から現職。

 川上 ファンドによる県内企業支援の着想は、1990年代前半のバブル崩壊の時までさかのぼります。バブル期の91~94年、私は企業融資を担当していました。バブル景気の最中、当時の優良企業はホテルやゴルフ場などにも投資しており、銀行も融資などでお手伝いをしていました。ところが、バブルが弾けると、負債だけが残り、県内企業が育ててきた資産は、県外や海外の資本に安値で買われていきました。2008年のリーマンショックによる景気悪化でも同じような状況に陥りました。

 頭取に就任した17年は、観光客と人口増加を背景に県内景気の拡大が続いてましたが、県民所得は全国水準よりも低いまま。利益が地元に残りにくいザル経済は改善されず、構造的な経済の課題は、貧困といった社会問題にまで行き着きます。沖縄経済を何とかしなければいけないとの思いが強まっていました。

 

 そのような中、過去最高を更新し続けていた観光客数が18年7月に70カ月ぶりに前年同月を下回りました。翌月には持ち直し、一般的には好調を持続しているとみられていましたが、私は異変が起こるかもしれないと感じました。観光需要の伸びを期待し、県内全域でホテル建設が相次いでいます。景気が後退局面に入ると、客室は供給過剰に転じ、これまでの投資が失敗する可能性があります。

 一方、バブル崩壊、リーマンショックで流出した県内資産も割安になり、買い戻すチャンスにもなります。すぐさまファンド設立に着手するよう指示しました。当初は東京五輪以降の景気後退を予測し、準備を進めていましたが、コロナの影響で、今年4月に景況感が悪化したため、一気にスピードを上げて、5月の琉球キャピタル設立にこぎ着けました。

川上氏 潜在的な成長促進 貧困問題の解決へ

■100億円目標

 武富 県経済のリーディングカンパニーとして三度、沖縄の財産の県外流出を繰り返してはならないとの思いがあったわけですね。沖縄タイムス社も理念に賛同し、発起人として参画しました。地元経済界がファンドを設立する意義についてもお聞かせください。

いけはた・とおる 1953年生まれ。77年琉球銀行入行。取締役総合企画部長、常務取締役、りゅうぎん総合研究所代表取締役などを歴任。2020年5月から現職。

 川上 ファンドは一般的に利回りを重視して運営しますが、ファンドの設立意義は異なります。沖縄の財産を守ることが最優先で、この意義に県内経済界から共感をいただいたと考えています。ファンドの支援では、新規株式公開(IPO)や第三者事業承継(M&A)などの出口戦略も重要です。琉球キャピタルの出口戦略は、県内資本への引き継ぎを重視します。

 武富 琉球ファンド1号には26社が出資しました。この規模感についてはどうお考えですか。

 池端 コロナ不況で先が見通せず、ちゅうちょする企業もある中、約3カ月で26社から57億円の出資をいただきました。県経済の規模を踏まえても大きな数字だと考えています。県内企業にも沖縄の財産を守るという強い思いがありました。みんな何とかしたいと考えていたのですが、1社では解決が難しい根が深い問題です。地元の銀行が声を上げたことで思いを集約でき、短期間でこれだけの金額に達したと思います。

 武富 沖縄の財産を自らの手で守りたいとの思いは、県内経済界で一致していたのですね。ファンドの資金はまだ集まりそうですか。

ファンド設立の意義について意見を交わす(右から)池端透琉球キャピタル社長、川上康琉球銀行頭取、武富和彦沖縄タイムス社長=那覇市久茂地・沖縄タイムス社(コロナ対策のため距離をとって実施しました)

 池端 12月までに総額100億円を目指しています。検討中の企業もあり、さらに多くの経営者から励ましの声をいただき、ファンド設立の意義に自信を深めています。

 川上 経済界全体が、沖縄のパフォーマンスはもっと上げられると考えています。なかなか具体化できずにいたのですが、今回のファンド設立で、風穴をあけることができたと思います。

池端氏 26社が57億円出資 今月から本格運用

■今後の展開

 武富 運用方針もうかがいたいと思います。どういった企業や業種に投資するお考えですか。

たけとみ・かずひこ 1961年生まれ。84年沖縄タイムス社入社。編集局長、常務取締役などを経て2018年から現職。

 川上 実際の運用は琉球キャピタルが担います。構想段階ではホテルやゴルフ場などの不動産を想定していましたが、コロナの影響で、厳しい経営を迫られる企業が増えています。事業再生、事業承継の重要性が高まっており、急ぐ必要があります。次代を担うベンチャー企業の支援も大切です。業種にこだわりはなく、全般的に支援していく考えですが、現状はコロナで苦しむ観光業への支援が急務になるでしょう。

 池端 いくつかの投資案件が検討段階に入っています。社内体制を整え、今月から本格運用に入りたいと思います。

 武富 琉球キャピタルとしての意気込みはいかがですか。

 池端 琉銀への信頼、安心感もあって、短期間でファンドを組成できたと思います。その期待に応えるべく、成功させなければいけないという強い意志を持って臨んでいます。非常勤取締役にリサ・パートナーズ社長を歴任した田中敏明氏、沖縄電力副社長も務めた石川清勇氏、琉球大学教授の獺口浩一氏を招きました。

 

 スタッフも経験者をそろえ、万全の体制を整えています。出資をいただいた県内企業からも出向を受け入れ、ファンド運用のノウハウを沖縄に蓄積していきます。まずは1号ファンドを成功させ、2号、3号につなげ、地域経済の発展に寄与していきます。

 武富 まさにウチナーンチュのアイデンティティーが盛り込まれたファンドです。沖縄タイムス社も出資した企業として、共に頑張っていきたいと思います。

 川上 これだけ幅広い業種から出資を集めた地方発のファンドは、他の地域にはないでしょう。沖縄全体の潜在的な成長を引き出し、貧困などの社会問題の解決にまでつなげていく考えです。地方創生の新しい形となるはずです。

 池端 協力の輪をさらに広げ、沖縄の財産を自分たちの手で守るという県内経済界の思いを実現させていきます。

 問い合わせは琉球キャピタル、電話098(975)9511。

[ことば]ファンドとは

 運用を目的に投資家から集めた基金。投資先は株式や債券、金融派生商品、不動産など多様で、得られた収益を出資比率に応じて投資家に配分する。経営が行き詰まった企業に出資し、業績を改善させて株式売却で利益を得るファンドもある。

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 座談会の模様は、動画投稿サイト「ユーチューブ」の沖縄タイムス社公式チャンネル内で公開しています。