社説

社説[大坂選手全米V]力と意志で再び頂点に

2020年9月14日 05:42

 女子テニスの大坂なおみ選手が全米オープンで2年ぶり2度目の優勝を果たした。昨年の全豪オープン以来、3度目の四大大会制覇となる。

 充実した心技体で勝利を重ね、快挙を成し遂げた。称賛の拍手を送りたい。

 今大会ではプレーだけではなく人種差別解消に向けた行動も注目を集めた。1回戦から毎試合、過去の黒人被害者の名前を記した黒いマスクを入場時に着用したのである。

 大坂選手は1回戦の後、異なる名前が記されたマスクを、決勝までの試合数に合わせて7枚用意していると明らかにした。人種差別に抗議する強い決意と覚悟を感じさせた。

 大会中にプレー以外で注目されるのは、本来なら精神的な重圧となるはずだ。しかし大坂選手は決勝の前に「マスクが大きなモチベーションになっている」と強調した。自身の影響力を自覚し「この問題にもっと関心を持ってほしい」との使命感こそが、優勝への原動力となったのだろう。

 ブレオナ・テーラーさん、エライジャ・マクレーンさん、アマード・アーベリーさん、トレイボン・マーティンさん、ジョージ・フロイドさん、フィランド・キャスティルさん、タミル・ライスさん。マスクに記された7人の名だ。

 警官の取り調べで首を押さえ付けられ、その後に死亡した男性。ジョギング中に白人男性にトラックで追い掛け回され射殺された男性。エアガンを持っていて警官の発砲を受けた12歳の少年…。理不尽に命を奪われた7人に私たちも心を寄せたい。

■    ■

 「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ)」運動の広がりにもかかわらず、警官の暴力などで黒人が死傷する事件が米国で相次ぐ。8月下旬には男性が背後から警官に銃撃され重体となった。

 全米オープンの前哨戦に出場していた大坂選手は、抗議のため一度は準決勝の棄権を表明した。その際に「私はアスリートである前に黒人女性。私のテニスを見るよりもっと重要なことがある」と、ハイチ出身の父を持つ自身に引き寄せて訴えた。

 行動したのは大坂選手だけではない。米プロバスケットボールのNBAや女子バスケットボールWNBA、大リーグなどでも、意志を示すため一部の試合のボイコットや延期などがあった。

 6月にはNBAウィザーズの八村塁選手もチームメートと共にデモ行進した。

 人種差別に対し、米スポーツ界は抗議の態度を毅然(きぜん)と示している。

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 スポーツに社会性や政治性を持ち込むことに対しては異論もある。

 五輪憲章は五輪の競技会場や選手村での政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁じている。ただ、人種差別は著しい人権侵害だ。修正や撤廃を求める声もあり、国際オリンピック委員会は世界のアスリートと議論を深めてほしい。

 大坂選手は優勝インタビューで「みんなが議論を始めてくれたら」と語った。日本の私たちは快挙を喜ぶだけでなく、マスクに込められた思いを真摯(しんし)に受け止めたい。

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