菅義偉首相が、少子化対策として総裁選で訴えた「不妊治療の保険適用拡大」が動きだしている。当面は現行の助成金を増額し、早ければ2022年度にも適用が広がる見通しという。

 子どもを持ちたい、わが子を抱きたいと望む夫婦には朗報である。ただ課題も少なくない。

 晩婚化を背景に不妊に悩むカップルは増え、5・5組に1組が治療の経験があるといわれている。

 一方、体外受精や顕微授精といった生殖補助医療は保険適用外で、1回の費用が数十万円にも上る。

 公的助成はあるものの、夫婦の所得や妻の年齢に条件があり、加えて回数も限られている。

 不妊当事者でつくるNPO法人「Fine」が2018年に実施した調査によると、体外受精1回の平均治療費は「50万円以上」が43%に上り、10年調査時の約2・5倍と高額化していた。総額で300万円以上支払ったという人が2割近くもおり、経済的理由から治療の継続を断念したり延期したりした人も半数を超えた。

 外からは見えにくい悩みで声を上げる人も少ないが、高額な治療費が生活に重くのしかかっているのだ。

 体外受精によって誕生する子どもは年間5万人を超える。「妊活」という言葉の広がりが示すように、不妊治療を受けるカップルは今後も増えると予想される。

 年齢制限などの課題を整理した上で、支援の拡充を急ぐべきだ。

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 「不妊治療の費用負担の軽減」は、今年5月に閣議決定された第4次少子化社会対策大綱に既に盛り込まれている。

 大綱は昨年生まれた赤ちゃんの数が過去最少となった「86万ショック」に危機感を示し、若い世代が希望通りの数の子どもを持てる「希望出生率1・8」を目指すとする。しかし最後に1・8台を記録したのは36年も前のことである。

 菅氏が総裁選で不妊治療支援を打ち出したのは、女性や若い世代を意識してのことだろうが、働く女性が増える中、壁となっているのは治療と仕事の両立でもある。出産後、安心して子どもを育てるには、待機児童問題などの解消も図らなければならない。

 治療を受けやすくする休暇制度の導入、仕事と家庭が両立できる働き方など職場の支援も必要だ。

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 子どもを持つかどうかは個人の生き方に関わる選択である。保険適用の動きが、出産を望まない人へ圧力とならないよう十分注意したい。

 さらに治療を続けても子を授かるとは限らず、年齢的な限界もある。経済的負担の軽減とともに、カウンセリング体制の強化など精神的負担の軽減にも努めるべきだ。

 家族の形は多様化しており、支援策には柔軟さが求められる。さまざまな事情で親が育てられない子どもを迎え入れる「里親制度」や「特別養子縁組制度」の定着にも力を入れてもらいたい。