沖縄県那覇市牧志の中心市街地に拠点を置くコミュニティーラジオ局、エフエム那覇。その4代目社長を務める奈良蓮さん(30)は、不登校やホームレスだった過去から立ち直った異色の経歴を持つ。ラジオは少年時代からそばにあった大切な存在。心を病み、家にこもる日々の孤独を、他愛もないトークや音楽で和らげてくれた。大人になり発信する側になった今、生きることがつらい誰かに、かつての自分を重ね語り掛ける。「僕はあなたに話しています。ずっとそばにいるからね」(学芸部・新垣綾子)

ホームレスだった頃に着ていた穴のあいたTシャツ。「どん底の日々を忘れず、おごらないように毎日を過ごしたい」と今でも大切に保管している=9月、那覇市

 9月に入り、相次いで沖縄に接近した台風9号と10号。午後10時から翌朝7時台まで9時間放送した特別番組のパーソナリティーを2度にわたって担当した。多様な話題を盛り込みながら、30分ごとの台風情報や断水・停電時などに必要な備えを発信。不安を抱え、眠れないリスナーを思い浮かべ「たとえあなた一人しか聴いていなくても、朝までやるよ」と語り続けた。

平日正午から1時間のレギュラー番組「トークランチョンビート」のパーソナリティーを務める奈良さん=7月、那覇市・同社

◆沖縄に恩返し

 4年前、前任の平良斗星さん(50)から社長を引き継いだ。それまでは、生活困窮者らを支えるNPO法人プロミスキーパーズ(那覇市)のスタッフ。コミュニティー局を拠点に地域活性化や人材育成につなげようと奔走する平良さんに「ホームレスの人たちにおにぎりを配る現場も大切だけど、違う形で人への支援ができるんだ」と刺激を受けた。平良さんが別法人の事業に注力するため退任すると聞き「僕にやらせてほしい」と希望した。

 当時26歳で、県外出身。「しかも元ホームレスとなれば、那覇の人たちに受け入れてもらえるのか不安でいっぱいだった」。それでも、かつてラジオに救われた一人として「ろくでもない自分を立ち直らせてくれた沖縄に、ラジオで恩返ししたい」との思いが勝った。

◆15歳で不登校

 2歳のころ、秋田県出身の父とフィリピン人の母が離婚。1歳下の妹と共に母に引き取られ、小学6年まで住んだ埼玉県では「つらかった思い出しかない」と言う。大人になった今なら、異国の地で苦労を重ねた反動だったと理解できるが、母にはよく暴力を振るわれた。母と新しいパートナーとの間に子どもが生まれた後は、年を重ねるにつれ「自分は愛されていない。不必要な存在だ」と苦しさが増幅。母から離れ、秋田に住む父方の祖母宅で暮らしたが、暴力の記憶が今度は奈良さん自身の「問題行動」となって噴出した。

 「なんで分かってくれないんだよ」。いら立ちを抑えきれず、マヨネーズを家中にまき散らしたり、祖母を目掛けて冷水を掛けたり。幻覚や幻聴にも悩まされ、15歳で不登校に、16歳で統合失調症の診断を受けた。

 「消えたい」。他者を拒絶して部屋にこもる間、幾度となくそんな衝動に駆られたが、それでもなじみのラジオ番組が始まれば、素直に心に入ってきた。とりとめのない雑談や流行の音楽、時事ネタや夢、恋の話。パーソナリティーと自分だけの空間に浸り「近所の兄貴に寄り添ってもらっているような、リアリティーと安心感を持てた」。

 

◆炊き出しが縁

 沖縄にやって来たのは19歳の年。高校を半年で中退後、東京近郊で働いたが、どの仕事も長続きせず自暴自棄になっていた頃だ。「どうせ死ぬなら、きれいな海がいいと思って」。楽器を売り払って得た2万4千円で、ちょうど沖縄行きの船賃を賄えた。

 那覇新港に着いてから約1カ月間は路上生活も経験し「80歳のおじいちゃんホームレスと一緒に腐りかけた弁当をあさっても、顔面をゴキブリがはっても気にならなかった」と振り返る。安定した衣食住を取り戻せたのは、生活困窮者向けの炊き出しでプロテスタント教会が母体のプロミスキーパーズにつながったからだ。同時に信仰心に目覚め、クリスチャンになった。思い起こせば、目の回るような道のり。結婚もして2男1女を授かり「10年前には全く想像もしなかった未来に立っている」としみじみ語る。

NPO法人のスタッフだった20歳のころ、生活困窮者向けの炊き出しで指示を出す奈良蓮さん(後ろ姿で右手を上げている男性)。188センチの長身で、よく目立つ=那覇市・与儀公園(提供)

 小さくとも会社のトップとなり「ラジオを通して夢をかなえたい個人や団体に、広く番組を持つチャンスを提供すること」にこだわってきた。この4年間で政治や経済、医療福祉の関係者のほか、大学生やひきこもりの経験者らが番組を制作。パーソナリティーは現在では、200人を超える。

 さらに、目指すのは一般市民からアイドル、タレントまで幅広い人材を巻き込みながら、多彩な趣味やサブカルチャーを紹介する深夜ローカル番組の放送。自殺が多いとされる深夜から早朝に「閉じた世界から抜け出せるような、新しい発見や出会いを届けたい」と描く。

 「『どん底』を味わった自分だからこそできる」との使命感、聖書の教えが原動力だ。「弱い人、苦しい人、悩める人を応援するラジオ局でありたい。ここを踏み台にしていい。リスナーやスポンサーの方々に支えられながら、新しい道へのチャレンジを見届けられることが、とにかく楽しい」

番組紹介ポスターの前に立つエフエム那覇の奈良蓮社長。総勢200人以上のパーソナリティーが放送に携わる