[話題本題]沖縄・基地白書

「沖縄・基地白書」

 「白書」とは、官公庁の年次報告書に用いられる行政用語だが、『沖縄・基地白書』というタイトルのついた本書は、沖縄タイムス記者による米軍基地報道の現状報告である。沖縄米軍基地問題のいまを知るのには手ごろな1冊だが、いわゆる官公庁の「白書」のように、平易なことをあえて分かり難く記述するわけではない。むしろその逆だ。

 新聞記事が一人称を避けたがるのは、記者個人の主観をできるだけ排除することで、事実を読者に伝えることができるとする客観報道主義に基づくからだが、本書は、その記者たちが一人称で米軍基地問題を語っている。それゆえに、記者たちの基地取材に向き合う心象風景も記述されている。新聞紙面では語りきれない記者たちの基地問題への怒り、憎しみ、やるせなさなどといった思いが、ない交ぜとなって溢(あふ)れ出ている。

 「沖縄ジャーナリズム」という言葉は、私の恩師でもある故・大田昌秀先生の造語とする説を唱えるメディア研究者もいる。そばで学んだ者からすれば、やや後付けの説という気もするが、沖縄戦、米軍支配、そして、復帰後の基地負担を強いられた沖縄において、米軍基地問題をどう報ずるかは、沖縄のジャーナリズムにとって、その存在意義を問われるものであることは言うまでもない。それゆえに、米軍基地に関連する記事がない日はないほど、沖縄の新聞にとって避けることができないのが米軍基地問題である。沖縄のジャーナリズムが、米軍基地報道の現状を定時報告した本書が「白書」を名乗るのは、当然と言えよう。

 近年、沖縄の新聞に対しては、一部の右派論壇から、政権与党の基地政策と歩調を合わせたような攻撃が続いている。そのような言説が飛び交う状況にあるからこそ、沖縄の記者に求められているのは、沖縄の民意に誠実に向きあい、丁寧に可視化していくこと、そして、ジャーナリズムの原理に基づいた正確な報道である。本書を読みながら、30年以上前に、大田研究室で、「真摯(しんし)に事実を追い続ければ、自(おの)ずと最良の結論が導き出せる」と聞かされたことを思い出した。

(音好宏・上智大学教授・同メディア・ジャーナリズム研究所所長)

「沖縄・基地白書」沖縄タイムス社「沖縄・基地白書」取材班編著、高文研発行