木村草太の憲法の新手

[木村草太の憲法の新手](137)性風俗事業への給付金 危険伴う国の不支給理由 平等権侵害、差別助長も

2020年10月4日 09:26

 9月23日、性風俗関連事業者が、持続化給付金を求めて提訴した。給付規定が性風俗事業を不支給とした点について、他の事業者との不合理な区別であり、平等権侵害になると主張している。

 梶山弘志経済産業相は、性風俗関連事業を除外した理由を、「社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくい」ためだと説明した(参議院予算委員会5月11日)。しかし、この理由付けには、危険が伴う。

 まず、性風俗関連事業は、風営法に基づく公的な許可を得て営業しており、違法な事業ではない。国民の代表が定めた法律により適法とされた事業の援助について、国民の理解を得難いという説明は不適切ではないか。

 また、「社会通念」という言葉は、憲法訴訟において、一部の個人的な感情に基づく措置を正当化するために持ち出されることが多い。個人的な好き嫌いによるものではないというのなら、具体的にどのような「通念」があるのか、論拠や証拠を添えて示すべきだ。しかし、国はそれを説明していない。仮に、一部の者の性風俗産業への嫌悪感を「社会通念」と言い換えているだけなら、個人的な感情を理由とした区別で、明確な平等権侵害だ。

 さらに、給付規定の文言には、「国家に差別を助長されない権利」の観点からも問題がある。給付規定8条1項では、個人向けでも法人向けでも、性風俗関連事業以外に(1)既に受給した者(1号)(2)公共団体(2号)(3)政治団体(4号)(4)宗教団体(5号)-が不支給とされている。(1)既受給者が対象外なのは当然だろうし、(2)(3)(4)はいずれも営利事業者ではない。

 さまざまな営利事業者が不支給対象とされ、その中の一つとして性風俗関連が不支給とされているだけなら、「特に支援の必要な事業者を選抜した」という説明も可能かもしれない。しかし、この規定では、性風俗が「狙い撃ち」にされている印象を与え、その事業を営む者への差別意識を助長しかねない。

 この点、性風俗事業者への不支給を擁護する声もある。性風俗事業は女性搾取や反社会的勢力の関与を伴い、本来、廃業させるべきものだから、公金で持続させてはならないという主張だ。

 確かに、搾取や反社会的勢力の関与はあってはならない。しかし、給付規定8条6号は、給付金の趣旨・目的に照らし適当でない者には給付しないと定める。搾取などが明らかになった事業者は、この規定で個別に排除すべきではないか。一律に性風俗関連事業者を排除するのは、過剰な排除に思われる。仮に、「性風俗事業は全て構造的に搾取等を伴う」というのであれば、風営法で全面的に禁止するなり、許可の条件を厳しくするなりして対応するのが筋だろう。

 もちろん、われわれが認識していない問題意識や論拠を国が、持っている可能性もある。しかし、ここまで見てきたように、現段階では、国が性風俗関連産業を給付から除外した理由は、不適切ないし曖昧だ。憲法訴訟の場では、国は、自らの正当性を緻密に説明する立場に置かれる。今後、国が訴訟でどう説明するか、注視していきたい。

 (東京都立大教授、憲法学者)=第1、第3日曜日に掲載します。

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