昨年4月、東京・池袋で乗用車が暴走して通行人をはね、母子が亡くなった事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長飯塚幸三被告(89)の初公判が東京地裁であった。

 被告は謝罪の言葉を述べた上で、「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶している。車に何らかの異常が発生し、暴走した」と起訴内容を否認した。弁護側は無罪を主張する。

 検察側の冒頭陳述によると、被告は前の車に近づきすぎたため車線変更を繰り返すうちに、アクセルを踏み間違えて時速約96キロまで加速し、自転車で横断歩道を渡っていた松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=同(3)=を死亡させるなどした。

 車は事故約1カ月前の点検でブレーキやアクセル機能に異常は確認されなかったことも明らかにした。

 遺族の松永拓也さん(34)は記者会見で「遺族の無念や2人の死と向き合っているとは思えなかった」と語った。

 真菜さんの父上原義教さん(63)=那覇市=は「謝罪の言葉はあったが、車のせいにしており、心から謝罪していない。受け入れられない」と話した。

 裁判では「過失」の有無が争点となる。今後、意見陳述も予定されている。

 どのようにして事故が起こったのか、事故を回避することはできなかったのか。事故から約1年半たって始まった裁判で、被告は真実を明らかにし、裁判所は事故の全容解明に迫ってほしい。

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 この事故をきっかけに、高齢者の運転免許証の返納が全国で急増するなど意識が高まり、対策も進んだ。

 警察庁によると、2019年の運転免許証の自主返納件数は60万1022件で、前年より17万9832件増えた。このうち、75歳以上は全体の58・3%を占めている。

 6月に施行された改正道交法では、一定の違反歴がある高齢ドライバーに免許更新時の運転技能検査を義務付け、衝突被害軽減のブレーキなどを備える安全運転サポート車限定免許を創設した。

 自動車メーカー各社もペダルの踏み間違いなどによる事故を防ぐ装置の販売に力を入れている。

 運転の安全性を確保する選択肢を増やすことで、事故防止につなげることは重要だ。車社会の沖縄では、免許証を返納しても「生活の足」に代わる公共交通サービスの充実が不可欠である。

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 上原さんは「事故で家族を亡くして苦しんでいる人も多いと思う。運転への不安や適切かどうかのアドバイス、相談を気軽に受けられる場も必要では」と提起する。

 県内でも飲食店で、自主返納者に発行される運転経歴証明書の提示で商品を無償提供したり、免許がなくてもタクシーの利用で観光を楽しむ企画など、返納しやすい環境づくりも始まっている。

 運転は生活と密接する。不安があれば返納する意識を定着させることや、いま一度、事故を起こさない関心を社会全体で高める必要がある。