特別公演「いのちの道~魂の舞台」を目前に控え「この時期に思い切って開催するのはいいことだ。観客にも出演者にも、非常に貴重な舞台になるだろう」と期待を寄せている。当日は幕開けの創作太鼓独奏を任された。「光史流を聴かせて見せる。舞台を清め、神が降りてくるような太鼓を打ちたい」と心に決めながら、構想を温めている。(学芸部・天久仁)

■混迷の時代 公演を癒やしに 

(4)比嘉聰(68)=「組踊音楽太鼓」人間国宝、光史流太鼓保存会師範

「舞台を清めるような太鼓を打ちたい」と語る比嘉聰さん=2020年10月

 コロナ禍で、日常にあった舞台はもちろん、日々の稽古まで自粛を余儀なくされている。実演家の登竜門である伝統芸能選考会も、今年は開かれなかった。大学生のころ郷土芸能クラブで歌三線とともに太鼓を始めて40年余。舞台での実践が実演家を鍛え、育てることを肌で感じてきた。かつてない事態に「想像もできなかった。いまだ先が見えない」と厳しい表情を浮かべる。組踊音楽太鼓の第一人者として、公演や後進の指導を続けている。2019年の組踊初演300年を経て、今年は次の世紀へ向けてスタートを切る年になるはずだった。「若いメンバーをはじめ、実演家を育てる舞台がなくなった今、できることは何か」を自問し続ける毎日だ。

 玉城朝薫の「五番」のひとつで組踊の代表作「執心鐘入」では何度も太鼓を務めてきた。作品では美少年、中城若松に恋い焦がれるあまり、宿の女が姿を鬼に変えてしまう。静から動へ、終盤に向けて物語は急展開する。情念を募らせて迫り来る鬼女に、太鼓は緩急を付けた音と迫力のある「ヤ声」で向かい合う。「白と黒」が鮮明な、対決の場面にも「やっつけよう、というよりも鎮めようという気持ち」を心に秘めながら、舞台に臨むという。

組踊「執心鐘入」(抜粋)で鬼女と向かい合う比嘉聰さん(左)=2018年9月


 「心で打つ。心がばちを動かす」。太鼓の師匠で光史流創始者、島袋光史さん(1920~2006)の言葉が今も心に残る。師匠が打って見せた「執心鐘入」の太鼓を耳にして「こんなにすごい太鼓があるんだ」と驚いた。

 決して音が大きいわけではない。それでも「迫力があった。今でも勝てないと思う」と振りかえる。「派手に打つだけでなく、小さく刻むことの大切さを、じかに太鼓を打って見せて教えていただいた」。存命ならば今年で100歳。「抑えながら、コロナをやっつける。先生がこの時代に生きていたなら、きっとそのようにおっしゃったのではないか」と想像する。

師匠、島袋光史さん(手前)の太鼓に合わせて三線を演奏する比嘉聰さん(奥)=1985年6月

 数々の舞台を経験した実演家でも、初めてとなる創作太鼓の独奏に「プレッシャーを感じる。ひとつひとつの音は単純だが、緩急と表現に太鼓の難しさがある。一人でできることは何か」。自問しながらも、目の前の「敵」と格闘するような意気込みがある。「舞台を清めながら光史先生に音が届く。そのような太鼓をたたくことができればいい」。晴れの舞台を心待ちにしている。

 公演はオンライン配信アプリ「Zoom(ズーム)」を利用して、当日生配信されます。配信料は2千円。購入はこちらから。

「いのちの道~魂の舞台~」
(1)勝連繁雄
(2)宮城幸子
(3)金城タケ子
(4)比嘉聰
(5)新垣俊道