社説

社説[合同葬の弔意要請]「圧力」強める流れ危惧

2020年10月17日 08:46

 中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬がきょう17日、東京都内のホテルで行われる。

 中曽根氏が首相在任中、行政改革の一環で、国鉄(現JR各社)や電電公社(現NTT)の民営化を実現するなどした功績は多くが認めるところだ。一方、合同葬に合わせ政府が国立大学などに弔旗や黙とうといった弔意の表明を要請したり、多額の公費を支出したりすることに国民の厳しい目が向けられている。

 これまでの合同葬でも、国立大や地方自治体、各学校などに広く弔意表明の要請を行った例はあり、加藤勝信官房長官は「強制を伴うものではない」と強調する。

 だが政府の弔意表明要請には内心の自由を侵しかねない懸念がある。学校現場にまで要請することは、特定政党の支持につながる活動をしてはならないと定める教育基本法に触れる恐れがある。

 県教育委員会は「各県立学校長や市町村教委に判断を任せる」として要請通知を転送したが、大阪府教委は府立学校への周知を見送るなど対応が分かれた。琉球大学は弔意表明を見送るとしている。

 弔意表明要請が、菅義偉首相による日本学術会議の会員候補6人の任命拒否という事態とほぼ同時に起きたことにも注意が必要だ。首相が任命拒否の根拠を一切説明せず、拒否された6人の候補者が過去に行った政府への批判的言動が理由ではとの疑念が解消されない中での要請は、特に教育現場に従来以上の圧力となっているのではないか。

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 1987年に岸信介元首相の合同葬が行われた際も政府は弔意表明を求める通知を出した。だが、元A級戦犯容疑者だった岸氏の経歴もあって物議を醸し、教育現場や自治体で要請通り弔意を示したのは一部にとどまった。

 こうした経緯からか、政府要請に遺族が難色を示した例もある。

 2006年行われた橋本龍太郎元首相の合同葬に際し、高知県知事だった弟の橋本大二郎氏は「一般の国民には強制とも受け止められかねず遺族の本意ではない」と内閣に固辞する意向を伝達。同県内の市町村に知事名で通知された要請も撤回した。

 07年の宮沢喜一元首相の合同葬では、政府は弔意表明要請を行わなかった。遺族の意向があったとみられている。

 政府は「先例などを総合的に勘案した」とするが、一律に弔意表明を求めるやり方は、純粋に故人をしのぶ妨げともなりかねない。

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 合同葬の費用は政府と自民党が折半する。政府負担は9600万円で、葬儀費用が計約2億円かかることも市民感覚からすれば驚きだ。

 橋本氏や宮沢氏の合同葬の政府負担は7千万円台。増えた理由は新型コロナウイルスへの対応や民間のホテルを使用するためとされる。

 政府が年間予算10億円の学術会議を「行政改革の対象」とする中で、一日の式典に1億円近い税金を費やすのは均衡が取れているのかという視点も必要だ。合同葬の在り方を、先例にとらわれず見直す必要がある。

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