社説

社説[首里城火災1年]議論重ね私たちの城に

2020年10月31日 11:03

 奉神門をくぐっても、そこに美しい赤瓦の正殿はない。御庭(うなー)には、今もがれきの入った黒い袋がいくつも置かれている。

 それでも、正殿裏手で焼け残った赤瓦の漆喰(しっくい)はがしに汗を流す市民ボランティアの姿に、再建を願う県民の思いを感じずにはいられない。

 下之御庭(しちゃぬうなー)では、猛火に耐えた大龍柱の補修作業も進む。

 再建へのつち音はまだ小さいが、確実に響いている。

 首里城火災から、きょうで1年となる。 

 主要6棟を焼き尽くし、約400点もの美術工芸品を失った、あれだけの火災にもかかわらず、出火原因は結局特定できなかった。

 ただ県の第三者委員会の報告で明らかになったのは、火災発見の遅れと初期消火の失敗である。

 夜間の火災を想定した訓練を実施してこなかったことや、施錠された門扉が消防活動の障害となったことなどは悔やんでも悔やみきれない。

 法令上、スプリンクラー設置の義務はなかったとはいえ、「想定外」を強調すれば今後も対策を誤ることになる。

 今回の再建では、そのスプリンクラーの設置など防災設備の充実を重視している。

 火災から1年を前に、首里城公園では夜間の火災を想定した初の訓練が実施された。

 毎年10月31日を県独自の文化財防火デーに設定するなど、教訓を引き継いでいく地道な努力が求められる。あの日の驚きと悲しみを「二度と失わない」という積極的な取り組みへつなげていきたい。

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 再建への動きの中で、正殿前で向かい合っていた大龍柱の向きを巡る論争が熱を帯び、地下に掘られた旧日本軍第32軍司令部壕の保存・公開を求める声が強まっている。

 議論が熱くなるのは、独自の文化や歴史を背景に「私たちの首里城」をよみがえらせたいという県民の思いの表れである。この動きを肯定的にとらえたい。

 首里城は14世紀ごろに造られてから何度も姿を変えてきた。その間、一対の大龍柱が正面を向く時代も、向かい合う時代もあった。

 大事なのは、これまでの研究で得られた歴史学の成果をつまびらかにし、解明されていない点があればさらに調査を進めることである。

 国は「見せる再建」を掲げ、破損した大龍柱の補修作業を公開している。同様に向きに関する情報や審議もオープンにし、議論の場を設け、県民が納得できる結論を出してほしい。

■    ■

 司令部壕の公開へ向けて、県は本年度中に検討委員会を立ち上げるという。

 首里城とその周辺は、戦争と平和について考える大切な場所であり、首里城再建に平和発信という新たな価値を付与し、将来世代へしっかり継承する必要がある。

 県が策定した首里城復興基本方針に盛り込まれた「新・首里杜(すいむい)構想」による一帯の歴史まちづくりの道筋もつけるべきだ。

 次期振計に構想を位置付けるなど、県の主体性と指導性を発揮してもらいたい。

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