木村草太の憲法の新手

[木村草太の憲法の新手](139)日本学術会議会員欠員 首相推薦要求 違法の恐れ 拒否撤回が是正への道

2020年11月1日 08:31有料

 10月26日に臨時国会が召集され、日本学術会議の会員任命拒否問題も重要なテーマとなっている。前回予告では、学問の自由の観点から考察する予定だったが、それは次回に回し、国会で議論すべき点を整理したい。ポイントは二つある。

 第一に、日学法は定員を「210人」と定めるのに対して(7条1項)、現在は任命拒否による欠員が生じ、違法状態となっている。

 この是正方法は、(1)任命拒否の撤回か、(2)別の6人の任命しかない。首相には(1)の意思は今のところないようだ。ただ、首相は学術会議が推薦した人物しか任命できないため(同2項)、(2)を実現するには、学術会議に推薦のやり直しを要求せねばならない。しかし、学術会議には推薦を翻す意思はないようで、それを強引に変更させることは、次の三つの理由で不可能だ。

 まず、日学法3条は、学術会議が「科学に関する重要事項の審議」(1号)・「科学に関する研究の連絡」(2号)という職務を「独立」して行うと定める。候補者選定は、ここに言う学術会議の職務の一つと解すべきだろう。また仮にそう解釈しないとしても、科学者の研究・業績の評価が学問に基づく判断である以上、3条の職務独立の趣旨は、候補者選定にも及ぶと解される。首相が自分の望む推薦基準を示し、推薦をやり直させるのは、学術会議の独立を侵し、3条違反の可能性がある。

 次に、日学法17条は、科学者としての「研究又は業績」に基づき候補者を選定すると定める。

 首相が、研究や業績とは無関係な「政治的見解のバランス」や「首相自身の総合的俯瞰(ふかん)的視点」等の基準による推薦を要求するのは、17条の定める基準に反し違法だ。仮に首相が任命拒否された6人の候補と同等の研究・業績のある別の人物の推薦を要求したとしても、学術会議側が、「研究・業績の観点から、そのような人物はいない」と判断すれば、それ以上の要求はできない。

 さらに、日学法は、首相が再推薦を命じた場合に、推薦をやり直す法的義務が学術会議にある、とは書いてない。学術会議が新たな推薦を拒否すれば、首相は別の者で欠員を埋めることはできない。

 国会では、首相に「どのようにして7条1項違反の欠員状態を是正するのか」と問うべきだろう。結局のところ、(2)の方法は違法または不可能で、欠員による違法状態の是正には、(1)任命拒否の撤回以外の選択肢はない。

 第二に、今行った検討は、従来の政府解釈を変更すべきではない理由となる。

 政府は、首相の学術会議会員の任命権は形式的なもので、推薦を拒否することは想定されないと解釈してきた。学術会議が定員と同数の候補者を推薦した場合に、7条1項違反の欠員を避けるには、首相が推薦通り任命する以外に道はない。従来の政府解釈は、条文の必然的な帰結であって、この解釈を変更するのは、解釈の限界を超えた違法な強弁にすぎない。

 国家公務員の任免は内閣・大臣の権限だという憲法原則に照らすと、こうした日学法の構造に違和感を持つ人もいるかもしれない。この点、政府は、学術会議の人選の自律を、学問の自由によって根拠づけてきた。次回は、その点を検討しよう。

 (東京都立大教授、憲法学者)=第1、第3日曜日に掲載します。

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