小説家・シナリオライター 大城密さん(45)=那覇市出身

 ウェブ上で発表した作品が人気を博し、2017年に出版した「下町アパートのふしぎ管理人」(角川文庫)で小説家デビューした。何げない生活の中からのヒントを得て、ホラー、ミステリー、青春、恋愛など幅広いジャンルの作品を発表。小説アプリ「peep」「StoryMe」などでも小説とコミック、小説とゲームを組み合わせた新形態のストーリーを手掛け、娯楽小説の新しい世代の書き手として注目されている。

娯楽小説の新しい世代の書き手として注目されている大城密さん

■ウェブ発表の作品が人気に

 大城さんは少年の時から好奇心旺盛で、友達と漫画や小説を貸し借りしながら楽しむ日々だった。小学生の時は、当時人気だった漫画「キン肉マン」に登場する超人の形を模した人形(キンケシ)をたくさん集めて、ごっこ遊びの延長で独自の物語を作った。

 同世代の子どもたちをとりこにしたオカルト情報誌「ムー」や伝説の恐怖漫画「恐怖新聞」も愛読。SFやホラーが大好きなのは、大人になった今でも変わらない。子どもの時の記憶や純粋な思いが小説に反映されているところもある。

 高校卒業後は、飲食店経営か小説家になりたいと漠然と考えて上京。電子系専門学校に入学したが半年で辞めた。その後、都内の飲食店でバイトし、35歳で自分の店を開いた。

 妻と2人で店を切り盛りしながら、独学で小説を書く日々。ウェブ上に発表した作品「私アプリ」が、スマホ小説大賞2014で角川ホラー文庫賞を受賞したことで、書き手としての仕事が一気に増えた。飲食店との兼業が体力的に厳しくなり、17年に小説家一本で進むことを決断した。

■直木賞作家からのアドバイス

 小説家で食べていけるのかという不安もあった。出版社の編集担当からも「兼業の方がいい」と心配されたが、直木賞作家の石田衣良さんから「専業になれば気合の入り方も全然違う。出版社にとっても仕事を依頼しやすくなる」とアドバイスを受けたことで、吹っ切れた。「2、3年やって無理だったら、また飲食店をすればいい」と話し合った妻と2人の娘たちの応援も心強く、背中を押した。

 デビュー作品は、浅草を舞台に霊能力を持つ若い女性が街の相談役として奇妙な事件に関わりながら人助けに奔走する物語。「魂込み(マブイグミ)など沖縄の慣習を下敷きに、下町の温かい雰囲気を書いた」と話す。その後も次々と作品を発表し、「前の住人がやって来た」「ぬらりひょんの棲む家」など小説アプリの脚本、ゲームシナリオも手掛ける。

 ペンネームの「密」は、近代日本の情報通信網を整え「郵便制度の父」と呼ばれる偉人、前島密にちなんだもの。「僕の名前も作品も広がるように」との思いを込めた。アイデアは頭の中にたくさんストックされている。「いつか、戦後の沖縄、日本復帰から現在の沖縄のことを書きたい」。異色の小説家は人懐っこい笑顔で意欲を見せた。(東京報道部・吉川毅)=連載アクロス沖縄

 【プロフィル】おおしろ・ひそか 那覇市出身、1975年生まれ。沖縄工業高卒。小説家、シナリオライター。小説やコミックなどの投稿コミュニティーサイト「エブリスタ」のスマホ小説大賞2014で、「私アプリ」が角川ホラー文庫賞を受賞。17年に「下町アパートのふしぎ管理人」で小説家デビュー。今年は、「夏、君と運命の恋をするはずだった」(角川文庫)、「スマホでバズった怖い話」(講談社)も発刊。ユーチューブで料理動画「ひみつ酒場」も発信している。