社説

社説[生殖補助医療法案]子の権利 慎重に議論を

2020年11月18日 06:10

 生まれた子どもの権利と福祉を最優先に議論を深めるべきだ。

 第三者が関わる生殖補助医療で生まれた子どもの親子関係を明確にするため、民法の特例法案が参院に提出された。

 法案は、第三者からの卵子提供で子どもが生まれた場合、出産した女性を母とする。妻が夫の同意を得て、夫以外の男性の精子による不妊治療で妊娠した場合、提供者ではなく夫を父とする、というのが柱だ。

 自民や立憲民主、公明など与野党6党が議員立法で提出し今国会での成立を目指す。

 現行の民法は、第三者が関わる生殖補助医療による出産が想定されていない。生まれた子どもの法的身分の保障がなく、親子関係の認定を巡り訴訟に発展した事例もある。

 法が整えば、こうした混乱を避けられる可能性が高い。子どもが欲しいと強く望みながら不妊に悩む夫婦にとっては朗報だろう。

 ただ、法案には幾つも課題がある。最も大きいのは、生まれた子が提供者の情報を得る「出自を知る権利」が認められていないことだ。

 提供者の情報の管理や開示の在り方は、2年をめどに法的措置を検討するとして先送りされた。さらに卵子や精子の売買、あっせんに関する規制、代理出産の是非なども今後の検討課題とした。

 生殖補助医療の事実が先行する中、法整備の必要性は20年来指摘されている。法案提出は「一歩前進」と評価の声があるのも事実だが、社会的な合意形成は十分ではない。

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 第三者の精子を用いた生殖補助医療は、国内では1948年に始まり、これまでに1万人以上が生まれたという。

 提供された精子で生まれた当事者たちは、成長した後に事実を知り精神的に不安定になったと訴え、遺伝上の父に当たる提供者の情報が明かされないことを問題視している。

 子が遺伝上の親を知りたいと思うのは当然の感情だ。自身のアイデンティティーに関わるだけでなく、不明のままなら遺伝性疾患の危険を知らずにいる恐れがある。「出自を知る権利」の問題を置き去りにしてはならない。

 日弁連も法案について「子どもの人権保障の観点などが欠けている」とする会長声明を出した。出生した子の意見も聴取し、包括的な法整備を検討するよう訴えている。

 もっともな指摘だ。課題を先送りせず国民的な議論につなげてほしい。

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 厚生労働省の部会が2003年にまとめた報告書は、15歳以上になった子が希望すれば提供者の情報を開示請求できる法制度の整備を求める内容だった。一定条件で卵子・精子提供を容認することも盛り込まれた。

 当時は反対意見があり実を結ばなかったが、子どもの権利の保障は世界的な流れだ。

 菅政権は不妊治療への保険適用拡大を目指しており、生殖補助医療への関心が高まっている。不妊に悩むカップルへの支援は重要だが、生まれた子どもがどう育つかにも留意すべきだ。

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