果たして智仁氏が、創業者である亡父の想いをしっかり理解し、引き継いでいるのか否か。コロワイドに株を売却したのは、後任社長との折り合いの悪さから家業を飛び出し、父が創業した会社に再び経営陣として戻りたいがための手段を選ばない復讐欲ではなかったのか。一連の彼の行動を、私はいささか疑問に感じています。

 大戸屋創業者・久実氏の想いは、創業来一貫して店内調理により質の高い料理を提供する、というコンセプトに基づいたものであったはずです。そして、その考え方こそが多くの消費者に受け入れられ、多くの大戸屋ファンをつくり、一大定食屋チェーンとして一部上場を果たすまでに成長させてきた原動力ではなかったのでしょうか。すなわち、大戸屋にとって店内調理の定食屋というビジネスモデルこそが祖業にあたるわけなのですが、その祖業に反する戦略を掲げるコロワイドに株を譲渡し、同社チームの経営陣として新生大戸屋に乗り込むというのはいかがなものか、と思わざるを得ないのです。

池袋で産声を上げた大戸屋(出所:同社公式Webサイト)

値下げ路線は悪手?

 企業の戦略転換、M&Aによる統合、買収などを取り上げる際に私が毎度申し上げていることは、「祖業をおろそかにする者に明るい未来なし」ということです。企業が窮地にあればあるほど、祖業を顧みて何が自社の強みであったのかを再確認し、戦略を再構築する必要があるのです。

 昨今目覚ましいソニーの“大復活”を考えてみてください。原動力は、祖業であるエレキ部門の要、テレビ事業がいかに大赤字状態にあろうとも、それを死守しながらヒントを得つつ、画像センサーの開発という新たな柱事業を作り上げた点に他なりません。一方、音響メーカーの雄であったパイオニアの衰退は、祖業であるステレオ部門を売却し後発のカーナビ部門に頼った復活策に走ったからに相違ないのです。

【参考】「カメラ事業売却」の衝撃 業務提携中のオリンパスとソニー、祖業を巡る両社の分岐点とは?

 大戸屋は20年3月期に上場来初の赤字転落となり、またその後はコロナ禍が追い打ちをかけており、創業来一番の苦境に立たされていると言ってもいいでしょう。赤字転落を招いた原因としてやり玉に挙げられているのは、主要メニューの相次ぐ値上げです。事実、14年ごろまでは平均600円台であったメニューが、材料費の高騰などを背景として現在主要メニューの価格は800~900円台になっています。新たに取締役として経営陣に名を連ねた創業家2代目の智仁氏も、「早期に料理の値段を100円程度下げ、料理の提供時間も短縮して、2022年3月期までに黒字化させる」と胸を張っているようですが、机上で考えるほど容易な話ではないと思います。