「独り」をつないで ひきこもりの像

「姉を助けて」届かなかった母と妹の声 30年ひきこもり 親亡き後寝たきりに

2020年11月28日 09:50

[「独り」をつないで ひきこもりの像]反響(中)

部屋に100体以上並んでいた姉の手縫いの人形。収納箱も丁寧に手作りされていた(提供)

姉の手縫いの人形。照明器具のない部屋だったため、日中に作業をしていたとみられる(提供)

部屋に100体以上並んでいた姉の手縫いの人形。収納箱も丁寧に手作りされていた(提供) 姉の手縫いの人形。照明器具のない部屋だったため、日中に作業をしていたとみられる(提供)

 沖縄県出身で都内在住のサキさん(58)=仮名=は連載「『独り』をつないで-ひきこもりの像-」を読み、現在は那覇市内の老人ホームに暮らす姉(65)の姿を重ねた。30年ひきこもり状態だった姉は、両親亡き後の自宅で倒れ、寝たきりに。会話も困難になった。なぜ-。答えのない問いを追うサキさんは「誰でもひきこもりになり得る。家族の問題と突き放さず、社会全体で解決の糸口を考えてほしい」と寄せた。

 しっかり者の姉。幼稚園教諭を夢見て、専門学校を卒業して働いたが、数年で離職。実家で家事手伝いのように過ごす時間が増えた。自室にこもったのは30歳を過ぎてから。家族にもはっきりとした理由は分からなかった。

 母と最低限の会話をするのみで、食事とトイレ以外はテレビもラジオも照明器具もない部屋で過ごす。東京に嫁いだサキさんは帰省のたび両親に「どこかに相談しよう」と訴えたが、年老いた両親が動くことはなかった。「そのうち外に出るだろう」との期待もむなしく、30年余りを重ねた。

 両親が健在の間は保てていたバランスは、2014年、姉の年金を払い終えた父が87歳で他界し、一気に崩れた。大黒柱の父を亡くした母は「あの子を殺し、私も死ぬ」と口走り、不安定になることも。父の死から数カ月後、母は夜中に自宅で転び、動けなくなった。姉は倒れた姿を目にしても起こすことができず、母は知人に発見される翌朝まで倒れたままだった。

 要介護となった母が老人ホームに入り、独り暮らしとなった姉は、それから1年ほどたったある朝、食料を届けてくれるいとこに台所で倒れているのを発見された。脳出血を起こし、言語障害とまひが残り、今は老人ホームに暮らす。

   ◇    ◇ 

 サキさんは「本人と家族だけでは葛藤ばかり。第三者の助けが必要」と振り返る。父の死後すぐ、母を連れて「姉を助けて」と役所や保健所、病院を回ったが「暴力はない」「本人が来ていない」などと言われた。やっとつながったのは、定期訪問してくれるNPO。話を聞いてもらい母の気持ちは落ち着き、訪問時は姿を見せない姉も時折、にこやかな表情を見せるようになった。光が差しかけた直後、姉は倒れた。

 3年前。母が85歳で他界し、サキさんは那覇の実家を処分するため姉の部屋に初めて足を踏み入れ驚いた。物があふれる中で目にしたのは100体以上の人形。母の着物の端切れなどを使い、手縫いされたものだ。「器用な手先を生かせる仕事をしていれば、姉にもまた違う人生があったのかも」。長年抱いていた恨みにも近い感情が癒えた。

 優しい目で姉を見られるようになったが、もう姉は話せない。サキさんは「ひきこもりが問題にならないような、誰にとっても居心地のいい社会ができるように」と願った。

(「家族のカタチ」取材班・篠原知恵)

ご意見をお寄せください

ひきこもり当事者や家族、支援に関わる方々の幅広いご意見や情報、疑問をお寄せください。こちらの入力フォームからアクセスするか、郵送は郵便番号900-8678、那覇市久茂地2の2の2「沖縄タイムス編集局社会部」宛て。ファクスは098(860)3483。

連載・コラム
記事を検索
注目コンテンツ
目指せセンバツ 県秋季沖縄大会イニング速報
目指せセンバツ 県秋季沖縄大会イニング速報
来春の選抜大会の切符を懸けて戦う九州大会の出場を目指し「第71回沖縄県高等学校野球秋季大会」の全試合をイニング速報します。
全国電話世論調査2021
全国電話世論調査2021
世論調査について、ビジュアル重視のデジタルコンテンツを作成。緊急世論調査の内容をお届けします。
復帰のエピソードお寄せください
復帰のエピソードお寄せください
日本復帰にまつわる体験や、半世紀を振り返っての思いなどをお寄せください。
「衆院選2021」特集
「衆院選2021」特集
デジタルコンテンツ「衆院選2021」は、「データで見る選挙の歴史」など計6回程度を順次掲載予定です。
SDGs企画「未来へ#いのちを歌おう」
SDGs企画「未来へ#いのちを歌おう」
Kiroro玉城千春さんが沖縄県内の小・中学校を訪ねて、夢、命の尊さを届けます。
不器用トーク・アーカイブ
不器用トーク・アーカイブ
不器用トークのアーカイブページです。毎月1回、まさに今、現場で取材している記者たちが、それぞれのテーマについて熱く語ります。
命ぐすい 耳ぐすい
命ぐすい 耳ぐすい
沖縄県医師会の各分野の医師による医療・健康に関するコラム
胃心地いいね
胃心地いいね
沖縄タイムスの各市町村担当の記者が、地域で話題のお店や人気グルメを食べ歩きます。
アクロス沖縄
アクロス沖縄
東京発 各分野で活躍する情熱県人らを紹介
ワールド通信員ネット
ワールド通信員ネット
世界各国の沖縄県系人の話題を中心に、海外通信員が各地のニュースをお届けします
マンガ家大城さとしが行く!沖縄のじょ~と~企業探訪
マンガ家大城さとしが行く!沖縄のじょ~と~企業探訪
おばあタイムスでおなじみのマンガ家・大城さとしさんが長編マンガで沖縄の企業を紹介するシリーズ企画です。
沖縄球児の思い出づくりサポート 高校野球写真サイト
沖縄球児の思い出づくりサポート 高校野球写真サイト
沖縄の高校球児たちの思い出づくりをお手伝いするために、県内大会の写真販売サイトを開設しました。※閲覧・購読は関係者のみ。パスワードが必要です。