「独り」をつないで ひきこもりの像

「バイトしてみたら」に既読スルー ひきこもる50代の兄 父の入所で崩れた現状維持

2020年11月29日 11:16

[「独り」をつないで ひきこもりの像] 反響 (下)

ひきこもりの兄について「せめて生きがいを持ってほしい」と望むケイコさん(仮名)=25日、沖縄本島

 「50代の兄が長い間就労せず、85歳の母と2人暮らしです」。今年10月、連載への意見として寄せられたメール。記者は、送ってくれた沖縄本島在住の会社員、ケイコさん(49)=仮名=に話を聞かせてほしいと申し込んだ。承諾の返事は1週間以上たってから。「ひきこもりと言っても、兄は『軽度』。当初は断ろうと悩んだ。でも、いろんなひきこもりの人がいることを知ってほしかった」。ケイコさんは、そう口火を切った。

 53歳の兄は幼い頃からおとなしく、内向的な性格だった。県外の大学に進学し、卒業後に沖縄で就職したが、1年もたたずに辞めてしまった。販売職や短期のアルバイトを転々としたが、この10年以上、働いていない。母に頼まれると買い物には出るが、基本的に一日中、テレビやスマホを見ながら過ごしている。

 きょうだいの会話はある。だが兄に就職の話を切り出すと、途端に無言になる。「バイトでもしてみたら」。SNSで送るメッセージも「既読スルー」される。ケイコさんは「『沖縄の長男』として甘やかされた結果、大人として成長の機会を失い、ひきこもってしまった」と思っている。

 4年ほど前、母と兄の話になった。高齢の親と同居し、両親の年金に頼りきりの兄。だが借金もなく、暴力も振るわない。今から働くことは難しいだろうし、このままでいいよね-。

 そんな「確認」は今年3月、84歳の父親が介護施設に入所したことで崩れた。年金だけでは父の施設利用料を賄えず、母は貯蓄を切り崩し始めた。遠からず、別居しているケイコさんの支援も必要になりそうな状況だ。

 ケイコさんは本紙のひきこもり報道を読むたび「うちはここまで深刻じゃない。比べたら申し訳ない」と思ってきたという。だが先の不安が強くなったことを機に今春、県ひきこもり専門支援センターに相談した。

 センター側には、兄が発達障がいではないかと指摘され、適切な支援を受ければ就労につながるかも、と期待した。兄に「病院に行ってみたら」と提案すると「ネットで調べたらいくつか当てはまる」とあっさり認めた一方で「でも行ってどうする。何が変わるのか」と受診を拒否された。

 兄に同情する思いもある。「同じ家で育ってきた。順番や性別が違っていたら、私がひきこもっていたかも」。就労してほしいが、働けないならせめて生きがいを持って生きてほしい、と思う。

 ケイコさんは「人とのつながりが長期的に実現できるような、兄にとっての居場所がもっと増えてほしい」と望む。「兄より先に支援を受けるべき人はいると思う。でも、このままではやっぱりいけない」

 不安や戸惑い、さまざまな思いが心の中を行き来し、苦悩の表情を浮かべた。(「家族のカタチ」取材班・又吉嘉例)

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