「独り」をつないで ひきこもりの像

「せっかくここまできたのに…」悔しさ募らせる医師 国のひきこもり往診の報酬が廃止 運営難で閉院に

2020年11月30日 07:49

[「独り」をつないで ひきこもりの像](27) 第3部「支援、その先に」 精神科の役割(上)

患者へにこやかに話しかける精神科医師の玉城尚さん=2019年11月、本島内

 厚生労働省の2020年度の診療報酬改定で、精神疾患を抱えながら病院に通えず、ひきこもり状態にある人の家を医師が訪ねる精神科訪問(在宅)診療に関する項目が21年3月で廃止されることが、30日までに分かった。これを受け、沖縄県内で10年以上、精神科訪問診療を実施してきたクリニックは運営を維持できず9月末で閉院した。(「家族のカタチ」取材班・勝浦大輔)

 本島内のアパートに車を止めると、慣れた様子で玄関をくぐる。閑散とした部屋。畳間に敷かれた布団に、40代の男性が寝転がっていた。「調子はどうですか?」。那覇市の精神科医、玉城尚さん(54)が明るく話し掛けた。

 男性は寝たまま、起き上がろうともしない。玉城医師が布団の横に座り様子をうかがうと、男性は不機嫌そうに「体調が良くない」とボソリ。玉城医師は「今日は、やめておきましょうね」と軽く声を掛け、さっと男性宅を後にした。

 統合失調症や不安障がい、トラウマ(心的外傷)、発達障がいなど、何かしらの問題を抱えてひきこもり状態にある人々の家を玉城医師が往診して12年になる。無理にコミュニケーションを取ることはせず、様子を見ながらその日の対応を見極める。「血圧を測らせてくれるかが、まず勝負ですね」。

 男性の家を後にすると軽自動車に乗り込み、7分ほど走らせる。次は一軒家。「こんにちは」と再び玄関をくぐった。「元気そうですね」「昨日は何食べた?」

 家族と何げない会話をしながら状態を確認し、必要に応じて処方箋を携帯式プリンターで出す。診療は1カ所10~15分。その分、訪問数を増やし、訪問看護も取り入れている。運動や買い物、散歩をしながら患者の好きなことも取り入れ、丁寧に向き合って状態の改善を図っている。

 訪問診療は週3回の午前中。1日7~8人、那覇・南部地域を回る。19年11月当時、担当患者は約40人だったが、長期に関わった患者は開院から約100人。1、2回と単発の診療も含めると、延べ300人ほどを診てきた。

 患者と患者の家は驚くほど近い。「アパート1棟に、1人はひきこもっている人がいるんじゃないかな」。玉城医師がつぶやいた。

 それから9カ月たった今年8月。この日、往診に向かう足取りは重かった。「えっ。もう先生は来ないんですか…」。患者、家族から戸惑いの声が漏れる。クリニックを閉じて訪問診療を終えることを慎重に伝えた。

 切られた、と思い「もういい」とそれっきりになった患者もいる。「先生が来てくれるだけで安心」と頼ってくれた人たちを裏切るようでつらかった。担当している患者は、クリニックの母体であるオリブ山病院の外来につないだり、他院を紹介したりと対応を急ぐが、行き先に見通しが立たない人もいる。

 特に心配な一人は本島に住む40代男性。70代の両親、姉と同居するが、中学生の頃に不登校となり約30年、ひきこもり状態が続く。統合失調症の症状が強いが、8年ほど関わる中で訪問看護の力も借りて風呂に入れるまでに改善した。だが、病院に通えるかと言えば難しい。「せっかくここまできたのに、また振り出しに戻るんじゃないか」。玉城医師は悔しさを募らせている。

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 連載「『独り』をつないで-ひきこもりの像-」の第3部「支援、その先に」では、当事者やその家族を支える医師や行政、就労の現場を歩き、誰にでも起こり得るひきこもりの現状と課題を見つめます。多くの困難がある中で、社会復帰を目指す本人や家族に地域社会がどう寄り添っていけるのかを考えます。

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