「独り」をつないで ひきこもりの像

「どうすれば良かったのか‥‥」引き出し屋に頼った両親 あの日から息子は日常を奪われた

2020年12月10日 07:12

[「独り」をつないで ひきこもりの像](30)  連れ出されて(1)

 「父さんと会うのは428日、母さんは429日ぶりだ」。10月下旬。久しぶりに沖縄本島内の実家に戻ったサトルさん(21)=仮名=が両親を見つめた。ひきこもりからの自立支援をうたう民間業者に、神奈川県内の全寮制施設へといきなり連れ出された“あの日”以来の再会。「引き出し屋を頼る前に、なぜ相談だけでもしてくれなかったの」。突然、日常を奪われた恐怖、怒り、悲しみが今もサトルさんの心を縛り続ける。(「家族のカタチ」取材班・篠原知恵) 

昨年8月に連れ出されてから初めて実家に戻り、母リョウコさん(左)らと対面するサトルさん=10月17日、沖縄本島

 「東京からお客さんが来たよ」。20歳の誕生日を目前に迎えた昨年8月15日昼。いつものようにリビングのソファでスマホをいじっていると、父テツヤさん=仮名=に声を掛けられた。「東京?」と疑問に思った、その瞬間。父と入れ替わりに、背の高い男性3人がどかどかと現れた。

 「誰?警察ですか」。寝起きの頭を必死に働かせ、震える声で尋ねると「警察と協力し、ひきこもりの人たちを救う団体だ」と返ってきた。「危ないものを持っていないか調べる」と、男性たちはサトルさんの部屋を探り出した。

 「仕事もせず勉強もせず、親を困らせて恥ずかしくないか」。1人に問われた。県内の進学高校を卒業後は進学や就労をせず、10カ月近く実家で戦闘ゲームなどをして過ごしていた。「確かに、両親には負担を掛けている」と答えた。

 すると「君には、ひきこもりの人たちが集団生活する施設に行ってもらう」と男性。「え、いつから」と驚くと「今日。今すぐ向かう」と言われた。「困ります。これからバイトとかします」「君に信用はない」-。押し問答は延々と続いた。

 「僕は拒否します」。確かに、はっきり、伝えた。だがサトルさんが未成年であることを理由に、男性は「親が許可した」の一点張り。「警察と連携している証拠を」と求めたが「知る権利はない」と突っぱねられた。サトルさんが逃げるのを警戒してか、リビングの出入り口には別の男性が立ちふさがっていた。

 父さん、助けて-。先ほどまでいた父の姿を探したが、見つからない。極度の緊張状態の中、高圧的な態度で説得されること約2時間。「拒否権がないなら、行くしかないのか」。次第に抵抗する気力が消えていった。「この生活が変わるのなら」と答えるほかなかった。

 玄関にはいつの間にか、日用品などが詰まったキャリーバッグが置いてあった。昔から家にあるバッグ。やっと「自分の知らない間に、両親が全ての準備を整えたんだ」と悟った。

 サトルさんが「地獄」と振り返る日々の始まりだった。両親と再び会うまでの428日間で、90キロあったサトルさんの体重は30キロ減った。

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