首相経験者が「政治とカネ」を巡り、検察の事情聴取を受けるという重大な事態である。当然、証人喚問に応じ、国民に丁寧に説明しなければならない。

 「桜を見る会」前日の夕食会費用の補填(ほてん)問題で、東京地検特捜部が安倍晋三前首相を任意で事情聴取していたことが分かった。

 夕食会を巡っては、2019年までの5年間にわたり、ホテル側への支払いと参加者の会費との差額900万円余りを、安倍氏側が穴埋めしたとされている。しかし夕食会を主催した後援会の政治資金収支報告書に記載はなかった。

 特捜部は、政治資金規正法違反(不記載)の罪で、後援会代表の公設第1秘書を略式起訴する方針を固めており、安倍氏に費用負担の認識を確認したとみられる。安倍氏は、不記載への関与を否定したもようだ。

 秘書が自らの判断で補填し、その事実を安倍氏に知らせていなかったというのは、にわかには信じがたい。

 あれだけ国会で追及されたのだから秘書に念を押すほか、ホテル側に確認する方法もあったはずだ。だが安倍氏側はそれを拒否した。そもそも補填費用は、誰がどこから工面したのか。

 政治とカネの問題で「あれは秘書が」と責任逃れをする政治家の姿をたびたび見せられてきたが、「秘書がやったこと」では到底通らない。

 たとえ知らなかったとしても指導・監督を怠った責任は免れず、時の首相が「虚偽答弁」を繰り返してきた責任は限りなく重い。

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 夕食会の問題は昨年秋に発覚し、安倍氏は国会などで「事務所からの補填はなかった」と重ねて答弁してきた。

 衆院調査局の調べで、事実と異なるとみられる答弁が少なくとも118回あったことが明らかになっている。

 安倍氏の事務所の関与や、補填の有無などを尋ねた質問への答弁を精査した結果、昨年11月から今年3月まで、衆参両院本会議と予算委員会でこれだけの「虚偽答弁」が見つかったのだ。

 政治家には説明責任がある。長期にわたり「虚偽答弁」を続けたのだから、偽証罪に問える証人喚問が必要だ。国民に見える公開の場で説明する必要がある。

 野党側が求める証人喚問に対し、自民党の森山裕国対委員長は「全くなじまない」と答えている。いったい何がなじまないのか、自民党側にもその説明が求められる。

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 安倍氏が首相在任中に、官邸に近いとされる元東京高検検事長を脱法的な手法で検事総長へ起用しようとした人事介入を思い出す。「桜を見る会」疑惑が背景にあるといわれていた。結果的に実現しなかったが、検察に何らかの影響力を及ぼそうとしていたのだろうか。

 安倍氏に関し、特捜部は不起訴処分にする方向で上級庁と調整に入った、と伝えられる。

 宰相の政治資金に関わる問題であり、国民は検察の動きを注視している。徹底的に捜査を尽くしてもらいたい。