新制度の導入に向けてアクセルを踏むべき時に、まさかの大幅後退となった。時計の針を巻き戻したかのようだ。

 今後5年間の政府の取り組みをまとめた第5次男女共同参画基本計画が閣議決定された。最大の焦点は、夫婦が希望すればそれぞれ結婚前の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓」の記述だった。

 どこまで踏み込むか注目されたが、決定された計画では「国会での議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、さらなる検討を進める」との消極的な表現にとどまった。それどころか第4次計画まであった「選択的夫婦別氏」の文言自体が削除された。社会の要請からあまりにも乖離(かいり)しており納得できない。

 当初の計画案には「政府においても必要な対応を進める」と導入に前向きな記述があった。修正に追い込まれたのは、伝統的な家族観を重視する自民党の反対派が攻勢をかけたためだ。

 計画案を議論した自民党の会議では「導入ありきで恣意(しい)的だ」などの批判が反対派から相次いだという。

 党内では、選択的夫婦別姓の推進派も活発な動きを見せ、意見が二分していた。議論したこと自体は一歩前進だとの見方も党内にあるようだが理解に苦しむ。

 新たな計画の策定に向け政府が実施したパブリックコメント(意見公募)には、導入を求める意見が約400件寄せられていた。結婚の当事者である若い世代などからの切実な声だ。その意見を5年に1度の改定に反映できず失望させた責任は極めて大きい。

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 決定した計画には、基本認識として次の記述がある。「男女共同参画社会の形成のためには、社会制度や慣行が、実質的に男女にどのような影響を与えるのか常に検討されなければならない」

 現状を見れば、結婚で96%の女性が夫の姓に変えている。結婚後も働き続ける女性が増える中、改姓によってキャリアが分断される不安を感じたり、自己喪失感を抱いたりする人は少なくない。

 通称として旧姓を使える範囲は広がってきたが、不利益の解消には十分ではない。明治時代に始まった「夫婦同氏制」が見直しの対象とされるのはごく当然だ。

 菅義偉首相は、かつて選択的夫婦別姓に前向きな発言をしていた。首相就任後にも「政治家として申し上げたことには責任がある」と答弁している。ならば党内に異論があっても責任を果たし、リーダーシップを発揮すべきだ。

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 第5次男女共同参画基本計画は女性の管理職登用についても数値を示している。

 指導的地位に占める割合を「2020年までに30%程度」と03年に掲げた目標を達成できず、今回は「20年代の可能な限り早期」に期限を先送りした。19年時点の実績は14・8%。明確な期限がなく目標がぼんやりしていて本気度が伝わってこない。

 スイスのシンクタンクが19年に発表した男女格差報告「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は121位と大きく落ち込んだ。世界の趨勢(すうせい)から完全に取り残されている。