「独り」をつないで ひきこもりの像

「企業という『居場所』につなげたい」在宅ワーク ひきこもり当事者のステップに

2020年12月29日 08:00

[「独り」をつないで ひきこもりの像](40) 第3部  新たな一歩(中)

共栄環境の下田美智代代表(右)と在宅就労の経緯などを話し合う、どこでもワークの朝比奈めぐみさん=9日、南風原町大名

 「彼のスキルは申し分なしです。その部署に、ぴったりじゃないでしょうか」

 在宅就労特化型の就労移行支援事業所「どこでもワーク」の一室。職員の朝比奈めぐみさん(42)はパソコン画面に向かって、県外企業担当者に訓練生を熱くアピールした。

 同ワークで就労訓練を続け、卒業を控えた20代男性。自宅にこもりがちで在宅就労を希望していた。企業の1次面接を受けた男性について担当者から連絡を受けた朝比奈さんは、最後の一押し。ついに「そうですね。採用してみましょう」との言葉を引き出し、男性は10月から在宅で働いている。

 同ワークの定員は現在20人。コロナ禍でテレワークへの注目度が高まり、問い合わせや利用者は増えた。だが希望者は増える一方で、在宅就労を取り入れる企業はまだまだ少ない。利用者の訓練が終盤に差しかかると、朝比奈さんは職場探しに取り掛かるが「一筋縄ではいかない」という。

 県外企業に比べ、県内での受け入れ先は少ない。片っ端から企業に電話したり、企業の集まりに顔を出して社長に直談判したり。あの手この手を使っても「間に合っています」「考えておくね」。説明さえできないことも多い。これまで県内200社ほどにアタックし、採用決定は7社。地道な開拓が続く。

 南風原町にある一般廃棄物などの回収業者「共栄環境」(下田美智代代表)は朝比奈さんに口説かれ、どこでもワークの卒業生を在宅社員として採用した。

 2019年5月。「在宅でできる仕事はありますか?」「何が任せられるか分からない」。こんなやりとりからのスタートだった。社員7人の会社で、代表の下田さんも多くの業務を抱えていた。電話対応、請求書や見積もり、顧客リストの作成に経理業務…。朝比奈さんは月に2度、下田さんの元に半年間通って業務を書き出し、在宅でできる業務をマニュアル化した。

 10月から卒業生が働きだすと、これまで手が回らなかったごみの量や回収ルートのデータ化などで、作業は効率化された。4年ほど未請求だった回収先があることも発覚。雇用から1年たち「社長業に専念できるようになった」と下田さん。卒業生の細やかで正確な作業内容に「とても満足している」とうなずく。

 どこでもワークの利用者は開所3年で延べ約40人。10人が就職した。多くは自宅にこもりがちな人だが「自立したい」「税金を払いたい」など、社会とのつながりを望んでいる人は多い。いきなり外に出るのではなく、在宅就労を社会とつながる最初のステップにするのもいい、と朝比奈さん。

 「私たちが間に入るだけで、うまくいくケースはいっぱいあるはず。利用者の『社会の役に立ちたい』という思いを、企業という『居場所』につなげたい」

(「家族のカタチ」取材班・勝浦大輔)

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(写図説明)共栄環境の下田美智代代表(右)と在宅就労の経緯などを話し合う、どこでもワークの朝比奈めぐみさん=9日、南風原町大名

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