政府が25日に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画からは「選択的夫婦別姓」の文言が消えた。菅義偉首相が自身の過去の前向きな発言に「責任がある」と言及し、一時、導入への機運が高まったが、自民党反対派の攻勢でしぼんだ。市民からは「なぜ女性の声をないがしろにするのか」と怒りの声が出ている。

 選択的夫婦別姓を巡る経過

▽喪失

 「自分の存在がこの世から消された感じがした」。約4年前に結婚した羽賀美樹さん(30)=東京都葛飾区=は、通帳の姓を変更した際、旧姓に二重線が引かれたのを見て喪失感に襲われた。結婚前は夫と、どちらが改姓するかを巡り言い争いに。結局、周囲の声に押され、夫の姓に変えた。婚姻届を出したとき「全然うれしくなかった」と振り返る。

 昨年、留学した英国の大学で、各国のクラスメートから「強制的に改姓させられるのはおかしい」ときっぱり言われた。羽賀さんは「日本の政治はどうして女性の声を聞き入れてくれないんだろう」と嘆く。

▽やる気

 「仕事や生活に支障を来している」「実家の姓が絶えることを心配して結婚に踏み切れない」。基本計画の策定に向け、政府が8~9月に実施したパブリックコメントには選択的夫婦別姓の導入を求める国民の意見が約400件寄せられた。

 こうした声を受け、機運が一気に高まったのは11月だった。菅首相が、自身がかつて制度導入に前向きな発言をしたことを野党に指摘され「政治家として申し上げたことには責任がある」と答弁。関係者は当時「保守層の支持者が多い安倍晋三前首相とは違う。菅首相はやる気だ」と語り、政府は導入を見据えた表現を基本計画に盛り込む検討を始めた。

▽骨抜き

 ところが、高市早苗前総務相や衛藤晟一前少子化対策担当相ら自民党の反対派が巻き返しを図った。12月に入り、政府が自民党会合で示した計画案に「導入ありきで恣意(しい)的だ」「家族が壊れる」として何度も修正を要求。ようやく了承された計画案は、当初案の大部分が消え〝骨抜き〟になっていた。

 橋本聖子男女共同参画担当相は25日、計画決定後の記者会見で「後退ではなく(慎重派に)配慮した」と説明。「3歩進んで2歩下がったので、結果的に1歩進むことができた」と強調した。

 市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の井田奈穂事務局長は「期待が高まった分、若い世代の落胆が大きい」と批判。一方「塩漬けにされていた議論が始まり、潮目が変わった」と話し、今後への期待感を示した。