首都圏1都3県が2日、政府に新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の発令を要請した。各種対策が奏功せず、感染状況の悪化により医療提供体制の崩壊が現実味を帯びる中で政府に最終手段を求めた形だ。ただ「コロナ慣れ」で人の流れを抑えられるかは未知数。政府は経済への影響をにらみ、難しい判断を迫られる。
▽危機
「改めて昨年の4、5月を思い出し、協力をお願いしたい」。東京都の小池百合子知事は西村康稔経済再生担当相への要請後、首都圏の住民に昨年の緊急事態宣言時と同様の行動変容を強く訴えかけた。
背景は昨年大みそかの首都圏の新規感染者数だ。東京都は過去最多となる1337人に達し、神奈川、埼玉、千葉の3県も全て最多に。都幹部によると「年明け早々に手を打たなければ」との判断から、政府が実際に宣言を出すか見通しがない中での要請となり、会談は約3時間に及んだ。
都幹部は「できることは今回の要請で全てやった。あとは政府がどう判断するかだ」と語った。
都内は飲食店などへの営業時間短縮要請や政府の観光支援事業「Go To トラベル」の一時停止の効果が全く出ていない。経済への悪影響を防ぐため、特措法改正後に宣言を要請する意見もあったが、感染拡大の勢いに押される形で前倒しした。
▽進むも進まぬも
ボールを預けられた格好の菅義偉首相は2日午後、厚生労働省幹部らと最新の感染状況を首相公邸で協議した。ちょうど西村氏が小池氏らから宣言の再発令要請を受けている時間帯と重なった。だが、首相は記者団のコメント要請に応じず、夕方に宿舎に帰った。出席者の一人は「今後の対応は状況次第だ」とけむに巻いた。
「進むも地獄、進まぬも地獄だ」。自民党関係者は首相の心境をこう推し量った。再発令すれば感染防止策の遅れを自ら認めることになる一方、発令に慎重姿勢を貫けば医療逼迫(ひっぱく)の政治責任を一身に背負いかねないためだ。
西村氏は小池氏らとの会談後、宣言発令を「検討していく」と明言。ただ、知事らに対し、外出自粛要請や飲食店の営業時間短縮強化を逆要求した。宣言下に近い措置を促した背景には、何とか発令を避けたい首相への配慮が透けた。
しかし「対策が後手」との批判の高まりの中、いつまでも曖昧な対応は難しい。今月4日に年頭の記者会見を控え、首相は政権運営を左右するジレンマに直面した。
▽死活問題
実際に宣言が出されれば、幅広い業種の事業者が経済活動の停止や縮小を余儀なくされる。昨年の宣言下に、多くの店舗が一時休業した百貨店業界はその後も外出自粛の影響で低迷。元日の初売りでは売上高が前年の半分に落ち込む店舗があり、ある大手の担当者は再発令なら休業せざるを得ないとして「営業面では痛手だ」と語った。
外食業界の打撃も大きい。宣言期間中だった昨年4、5月は業界全体の売上高が前年同月から大きく下落。東京・新橋の居酒屋では昨年12月以降の感染者急増が影響し、例年なら新年会で続々と埋まる1月もカレンダーはほぼ白いまま。女性経営者は「正月気分が吹き飛びそうだ」と話した。