社説

社説[コロナと生活保護]申請を促す発信もっと

2021年1月8日 07:34

 昨年10月分の生活保護申請が1万8621件となり、前年同月と比べ1・8%増えたことが、厚生労働省のまとめで分かった。新型コロナウイルスの影響で仕事を失う人が増える中、9月に続いて2カ月連続の増加である。

 生活保護申請は昨年4月の緊急事態宣言発令に伴う休業要請などにより24・8%増と大きく跳ね上がった経緯がある。きょう8日からは、首都圏1都3県に再び宣言が発令される。

 コロナによる影響は長期化しており、苦しい生活を強いられる人がさらに増えるのではないか。必要な人がためらわずに申請できるよう環境を整えなければならない。

 年末年始に民間の支援団体などが実施した相談会や食料配布には、暮らしが立ちゆかなくなった大勢の人が集まった。那覇市内であった恒例の炊き出しにも、普段より多くの人が訪れた。

 低所得世帯の暮らしを再建してもらう狙いで貸し付ける「生活支援費」の融資決定件数は、3月からの約9カ月間で50万件を超えている。リーマン・ショック時の12倍にもあたる。

 懸念されるのは、2人以上の世帯なら最大20万円を3カ月分まで無利子で借りられる生活支援費など特例制度の利用が限度額に達し、「今後の生活が見通せない」という相談が増えていることだ。

 専門家は「本来なら生活保護を受給した方がいい人が貸し付けを利用しているケースも多い」と指摘する。

 増えたとはいえ申請の数字には反映されていない、保護を必要とする人たちに目を向ける必要がある。

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 申請をためらうのはなぜなのか。

 思い出すのは10年近く前、人気タレントの母親が生活保護を受けていたことをきっかけに相次いだ「不正受給」報道や生活保護バッシングである。

 結果、貧困の広がりとは裏腹に、本当に困っている人が受けられない「漏給」が見逃され、受給者には厳しい視線が注がれた。

 根深い偏見と自己責任論が幅を利かせる社会のせいだろう。支援を受けることへの抵抗感は強い。 

 生活保護は憲法25条が保障する「生存権」を具体化したものである。

 コロナ禍ではこれまで貧困とは無縁だった働き盛り世代などからも「新たな貧困層」が生まれている。

 誰もが困窮するリスクのある時代なのだ。

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 田村憲久厚労相は、年末の記者会見で「生活保護を受けることは国民の権利だ。迷わず申請してほしい」と異例の呼び掛けを行った。同省のホームページでは「よくある誤解」として、別居している親族に相談しなくても申請できることなども発信している。

 コロナ禍によって照らし出されたのは、最後のセーフティーネット(安全網)が、きちんと機能していないという社会の脆弱(ぜいじゃく)性でもある。

 命をつなぐ制度の趣旨を社会全体で共有し、もっと積極的に利用を呼び掛けるべきだ。

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