日本で初めて、男性同性愛者であることを公表した上でキリスト教の牧師になった沖縄出身者がいる。横浜市の教会を拠点に活動する平良愛香さん(52)がその人だ。よく女性に間違われたという名前は、聖書にある「哀歌」の音はそのままに平和を願って付けられた。「同性愛は罪」とするキリスト教の主流的な解釈を超えて、大学や講演で自らをさらけ出す。「人と違うことはかっこいい」と言い切る、ちょっと型破りな両親の存在も、前に進む支えになったと振り返り、誰もが安心して暮らせる社会をつくろうと呼び掛ける。昨年12月、横浜市内の愛香さんと沖縄市に住む両親に、それぞれ話を聞いた。 こちらは愛香さん本人編。(聞き手=東京支社・吉川毅、学芸部・新垣綾子) 

男性カップルの「結婚式」に立ち会う牧師の平良愛香さん=2013年11月23日、東京都内のホテル(提供)
男性カップルの「結婚式」に立ち会う牧師の平良愛香さん=2013年11月23日、東京都内のホテル(提供)

■「愛香」と名付けられて

 ―「愛香」さんの名前について。珍しいお名前ですね。

 愛香さん「生まれた時はベトナム戦争の真っただ中で、両親は平和への祈りを込めて『愛香』と付けてくれました。沖縄の人は米軍基地があることで被害も受けていますが、沖縄から爆撃機がベトナムに飛んでいく現状に、両親は『加害者にもなっているんだ』とすごく感じていたそうです。聖書の中の平和を叫び求める歌『哀歌』の言葉を引きながら平和は実現するんだという確信を持って愛香にしたそうです。男の子でも女の子でも使える名前だと思ったんですって。その時点で、変わった親だなと思います。まさにジェンダーフリーですね」

 ―どんな子どもだったのですか。

 「髪の毛も長めで、声も甲高かったです。説明しない限り、女の子に間違われていました。あとは、愛香という名前ですね。女みたいだなとからかわれたこともありましたが、両親から『あなたはあなたらしく、自分らしく生きなさい』と言われて育ちました」

 ー名前のことで悩んだこともあったのですか。

 「『女みたいだな』と言われると傷つきました。『この名前は好きじゃない』と母に伝えたら、『じゃあ、変えたら?』と言われて拍子抜けしたのを覚えています。それではと、1度、名前を捨てて、あらためて別の名前をリストアップしてみましたが、最終的に選び取ったのは『愛香』でした」

 「教会に訪れる人たちの中にも、自分の名前が嫌いで、何十年も我慢して生きている人もいますが、『自分の名前なんだから、押しつけられたものではなく、自分で選び取っていい。権利はあなたにあるんですよと』と話しています。自分の人生なんだから自分がどう生きたいかということを探し続けることが良いことなんですよ。僕にとっては名前にまつわる『自分で選び取る』という経験が、その後のセクシュアリティーについて悩んだときに生かされました」

 ー心引かれるのは女性ではなく男性と気付いたのはいつごろですか。

 「気付いていたのは幼い頃からですが、人と違うということに気付いたのは中学校に入ってからです。周りの男子生徒が女子を意識するようになったのですが、僕は何も感じなかった。ただの友達としか思えませんでした。僕は異性ではなく同性が好きなんだと自覚してましたが、高校2年生の時に誰にも相談できないのに耐えられなくなって、仲の良かった男友だちに、初めてカミングアウトしました。彼は『愛香は愛香だよ』と言ってくれました。中学高校と良い友人に恵まれたと思います。今もそうですが、『困っている』と言える関係をすごく大事にしてきた気がします」