■異性愛が正しい?

 ー牧師以外にもなりたい職業があったのですか。

 愛香さん「短大は音楽教育学専攻でした。実はやりたい仕事もあったんです。それは、NHKの番組『おかあさんといっしょ』の歌のお兄さんになることでした。オーディションを受けたのですが、書類審査で落ちました。これは牧師になりなさいという神さまからのお告げかなという感じで、牧師養成校の一つである農村伝道神学校に入学したんです。神学校卒業と同時に、しばらく幼稚園でも働きました。テレビの歌のお兄さんにはなれませんでしたが、幼稚園では子どもたちにせがまれて即興で絵本にメロディーつけて歌う。まるでミュージカルですよね」

 「ある時、女の子たちから『私がお姫様やるから、先生が王子様になって迎えに来て』って言われたので、『あぁ僕も王子様に迎えに来てほしい』と言いました。すると『愛香先生は男の人が好きなんだよね~。でも今は我慢して私たちを迎えに来て』と。子どもの方が、そういう会話ができる。おかしいとか言い始めるのは小学校に入って、異性愛が正しいというような刷り込みが強くなってからでしょうね。幼稚園で働いてる時は、意識的に男らしく、女らしくではなくて、自分らしく生きることが大事だと伝えました。ままごとで、男の子がドレスを着たがると、『似合うね、とってもすてきだね』と褒めてあげました。『それを変という友達や大人がいるかもしれないけど、愛香先生は変とは思わない』と、1対1ではなく、みんなが聞いている前で話していました。子どもたちが成長する中で、そうである必要はないと愛香先生は言っていたなと思い出してほしくて。当事者が少しでも傷つかないでいるために、また、そうじゃない子も当事者を傷つけないためにとすごく意識しました」

日本キリスト教団三・一教会(神奈川県相模原市)の牧師だった頃のサマーバイブルキャンプで、参加者に歌や遊びを教える平良愛香さん(中央)=2004年夏、静岡県御殿場市内(提供)

■LGBT教育とは 

 ―LGBTなど性的マイノリティーについて、教員向けの講演も行っているそうですが、学校現場の取り組みの現状について感じることはありますか。

 「LGBTの子どもたちを傷つけてはいけないということを頭では知っていますが、じゃあどうすれば良いのかということを知らない先生たちもいます。例えば、ある小学校の先生から、体育着に着替える時に女の子と男の子の部屋を分けて着替える場合、LGBTの子どもたちの子はどうすればいいかと質問がありました。どの子がLGBTかって、見てわかるものではありません。『もし、みんなと一緒に着替えるのが嫌だという人がいたら先生に相談してね』と言えば、全部解決する。それはLGBTだけじゃない。体にけがの痕があって人前で着替えたくない子もいる。先生が何々しましょうと有無を言わさずに指示するのではなく、それをやりたくない子が相談できる先生がいるということが大事だということです」

 「LGBTの子が安心できる学校は、LGBTではない子たちも安心できる学校。要は一人ひとりに寄り添えるかどうかです。ただ、そのマニュアルはありません。困っていると言える環境になっているかどうかなんです。子どもたちが困っていると言った時に、本気で一緒に考えてくれる人がいるかどうかなんです。『人に迷惑を掛けてはいけません』と習うのは、日本だけなんですね。具体的には僕の友だちに視覚障害の友人がいますが、子どもの頃から人に迷惑を掛けないで生きていける大人になりなさいと徹底的に言われているので、本当に何でもできる人になっている。結婚して子育てもして、パソコン教室の講師もしている。でも、彼女の経験を聞くと、相当我慢して生きてきたようです。迷惑をかけてはいけないという教育が浸透しているために、困っていても『助けて』と言えない人が障害の有無に関係なく、あまりにも多いんです」

 ー日本社会全体に言えることですね。

 「政府がやたら自己責任論を振り回すから、自己責任だと思って人に頼ってはいけないと思っている人が多いのではないでしょうか。時々、大学の授業でも話しますが、自立するということは人の手を借りないことではなくて、借りられる手をどれだけたくさん持っているかということなんですよね。上手に迷惑を掛けることを学ばなければいけない。かけられる側も、私も他の人も迷惑をかけて寄り添ってもらおうという感じで。『困ったら何でも相談してね』と言える学校、社会だと良いですよね」